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Genitourinary Cancer Today 2025 No.2
第112回日本泌尿器科学会総会:前立腺がん
SP2-3 Lu-PSMA-617の実臨床導入時に予想される問題点
溝脇 尚志 先生(京都大学大学院医学研究科 放射線腫瘍学・画像応用治療学)
更新日:2025年7月1日
177Lu-PSMA-617を用いた放射性リガンド療法の円滑な実施には、特別措置病室の増床、放射線(RI)排水設備の整備・規制緩和、施設間の調整・連携などの整備が必須であり、68Ga-PSMA PET/CT検査の実施体制整備も懸案事項であることが示された。
177Lu-PSMA-617を用いた治療は、転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)でPSMA-PET検査によりPSMA陽性と診断された患者を対象に行われるが、本治療の課題として、放射線治療病室(RI治療室)の不足やPSMA-PET/CT診断検査の問題がある。
現在、本邦で行われているRI内用療法には、甲状腺機能亢進症・甲状腺がんに対する放射性ヨウ化ナトリウム(I-131)カプセル、骨転移CRPCに対する塩化ラジウム(Ra-223)、ソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍に対するLu-177-DOTATATE、MIBG集積陽性の治療切除不能な褐色細胞腫・パラガングリオーマに対する3-ヨード(I-131)ベンジルグアニジンを用いた治療がある。Ra-223以外の製剤を用いるには、RI治療室が必要である(Lu-177-DOTATATE治療は特別措置病室でも治療可能である)。
131I治療はこれまで長く行われてきた治療であるが、131Iによる入院治療数と比較すると既存のRI治療室は10年前から飽和状態にあり1)、RI治療室数も2012年から約10年間ほとんど増えていない2)。さらに、甲状腺がんの遠隔転移に対しては第一選択であるにもかかわらず、保険点数が低いことに加え、DPC制度や独立行政法人制度によってRI治療室を廃止する病院が増加した。その結果、首都圏では人口100万人あたり0.54床に限られ、治療待機期間は4~6カ月という状況である1)。Lu-177-DOTATATE導入時に特別措置病室が増えたものの、RIの専用病棟がない県も複数存在し、他の製剤の導入余力はほとんどない。
しかし、既存のRI治療室は、排気や排水、遮蔽などの設備に応じて各核種の年間使用量は決められており、放射線使用量を増やすことは困難である。また、新たにRI治療室を設置するには莫大な費用がかかり、許可の取得にも3カ月以上を要する。
そこで、モデル地域として5県が選定され、Lu-177-PSMA-617導入時の治療待機期間の予測が行われた。施設アンケート、県内の核医学治療専門医へのインタビュー結果から得た各県内のRI治療室、特別措置病室の病床数や施設間連携状況などをシミュレーション用に数値化した結果、現状の治療体制のままではPSMA治療導入後3年以内に5県すべてでPSMA治療の平均待機期間が1年を超え、他の核医学治療の待機も大幅に長期化する可能性が示唆された。改善策を講じて平均待機期間を2カ月以内とするには、各県で5~30床の特別措置病室が必要であり、規制緩和や設備改修などによる排水対応も待機の短縮に有効であると考えられた(参照:LB2-4)。
RI製剤特有の問題点として、海外を中心とした完全受注生産であり、半減期があるため在庫を持つことができない、さらには投与可能日が限定され、製造・輸入・輸送トラブルや退出基準未達のために入院が延長する可能性もある。そのため、RI治療室、特別措置病室をフル稼働することは非現実的である。京都大学ではRI治療室を5床有し、このうち2床はLu-177対応、2床はI-131対応、1床は予備・緊急用として運用している。特別措置病室は治験病棟に2床あり、治験を行っている。
診断薬の68Ga-PSMA-11は、海外製の68Ge/68Gaジェネレーターを用いて現場で製造する。ジェネレーターは非常に高額なうえ、使用可能期間は1~1.5年と短い。また、コンパニオン診断薬として承認される見込みで、採算が取れず、検査のみの集約化は難しい可能性があることなどから、施設への導入のハードルが高い状況である。また、PET/CT検査枠をフル稼働している施設が多く、適時検査実施のための余力不足が推測されており、調査研究の実施が計画されている。
1) 東 達也. FBNews. 2020; 528: 6-10.
2) 全国核医学診療実態調査専門委員会. RADIOISOTOPES. 2023; 72: 49-100.
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監修 上村 博司 先生のコメント
Lu-PSMA治療の治験や臨床研究を実施している放射線科医からの発表であり、指摘されている問題点は本治療が前立腺がんに保険適用になった時の切実な事態を予見している。放射線治療室の不足、コンパニオン診断の68Ga-ジェネレーターが高額、取り扱う医学物理士の不足、核医学治療は甲状腺がんや他疾患などもあり現在でも治療待機期間が2カ月以上であることなど、多くの問題が山積している。前立腺がん治療の実施に向けて周到な準備が必要であることがわかった。
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