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Genitourinary Cancer Today 2025 No.2
第112回日本泌尿器科学会総会:前立腺がん

LB2-4 Simulation-based prediction of the waiting periods for Lu-177 radioligand therapy for PSMA-positive metastatic castration-resistant prostate cancer in Japan
PSMA陽性転移性去勢抵抗性前立腺癌を対象としたLu-177放射性リガンド療法の治療待機期間予測と適切な核医学治療体制のシミュレーションによる検討

上村 博司 先生(湘南鎌倉総合病院 泌尿器科/前立腺センター)
更新日:2025年7月1日
前立腺特異的膜抗原(PSMA)陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対する核医学治療の国内導入が期待される中、現状の治療体制のままでは核医学治療用の病室不足や排水規制の制約により、PSMA治療の平均待機期間が長期化し、他の核医学治療にも影響を及ぼす可能性が、モデル地域の主要核医学治療施設におけるシミュレーションから示唆された。

PSMA陽性mCRPCの治療を目的とした、放射性医薬品177Lu-PSMA-617を用いた核医学治療の需要が急増することが見込まれている。PSMA治療は国内治験では6週間隔で6回投与し、他者への被曝を避けるために投与後は数日間、特別措置病室または放射線治療病室への入院が必要であるが、国内の核医学治療用病室の不足、排水設備の制約が治療実施の課題となっている。政府は核医学治療実施までの平均待機月数について「2030年度までに平均2か月」とする目標を掲げているが1)、PSMA治療の導入に伴って病床不足はさらに悪化し、PSMA治療のみならず、他の核医学治療の待機期間も長期化する恐れがある。このような状況を踏まえ、本研究では、モデル地域5県の主要核医学治療施設で、治療設備などに関するアンケートとインタビューを実施し、県内の核医学治療需要と治療体制などをインプットとするシミュレーションモデルで待機期間を予測、平均2カ月の待機期間達成に必要な特別措置病室数の試算と、待機改善策の効果を予測した。

PSMA治療の潜在需要について、導入初年時には177Lu-PSMA-617の対象となるPSMA陽性mCRPCの新規患者が1万5,709例に上り、2年目は9,473例、3年目は9,600例、その後も年間約9千~1万例になるとの推計が得られた。これらの患者のうち約25%が核医学治療の対象となると予想されるため、導入初年には約4,000例の治療ニーズが発生し、2年目以降も年間2,000例以上が新たに治療対象となると推定し、その患者数がシミュレーションに用いられた。

待機期間のシミュレーションでは、現状の治療体制のままではPSMA治療導入後、待機期間が政府目標の2カ月を超える患者が徐々に増えて溜まっていき、導入後3年以内に5県全てで平均待機期間が1年を超えると予測された。また、他の核医学治療の待機も大幅に長期化する可能性が示された。実際にアメリカでは、核医学治療の待機期間の長期化により、治療を受ける前に患者さんが亡くなるという事例が報告されている2)

治療待機の要因は核医学治療用の病室不足が主であると予測されたが、仮に増床しても、多くの県において排水中の放射性同位元素の濃度に関する規制が制約となり、177Lu-PSMA-617の使用数量が限定されるため、増床だけでは十分に待機期間を短縮できない施設が出てくる可能性も示唆された。
平均待機期間を2カ月以内に収めるには、各県で5~30床の特別措置病室の設置、規制緩和・設備改修による排水対応が有効と考えられるが、これらを対応してもなお、待機患者が増え続ける可能性のある県もあった。

以上のことから上村氏は、PSMA治療の導入による核医学治療の需要急増の可能性を考慮し、特別措置病室の拡充、規制緩和や設備改修などによる排水キャパシティへの対応、施設間連携による病室などの有効活用といった複合的な対応が急務と考えられる、とまとめた。


1)  原子力委員会. 医療用等ラジオアイソトープ製造・利用推進アクションプラン. 2022年5月31日(https://www.aec.go.jp/kettei/kettei/20220531.pdf)
2)  Ravi P, et al. J Nucl Med. 2023; 64: 349-50.
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監修 上村 博司 先生のコメント
mCRPC治療として期待されているPSMA治療は核医学治療ゆえに多くの課題があることを、導入された場合のシミュレーションで示した発表である。適応患者数が多いことは予想に難くないが、それに応えるべく治療をするには、治療施設と病床数の確保が必要である。さらに治療核種がベータ線であり尿から排泄されるため、尿の取り扱いや排水設備を整える必要がある。コンパニオン診断としてPSMA-PET/CT検査も順番待ちの可能性があり、問題山積と言える。
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