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Genitourinary Cancer Today 2022 No.1
APCCC 2021

セッション2:診断と治療におけるPSMA

Session 2: PSMA in diagnostics and therapy

PSMAは臨床転帰を向上させる最善の病期診断モダリティか?

PSMA PET: Really the best modality for staging to improve clinical outcomes? 
Piet Ost氏(Ghent University, Belgium)
更新日:2022年2月4日
Ost氏は、PSMA-PETで病期が変更されることによる過剰治療または過少治療のリスクについて議論を展開し、PSMA-PETによる治療選択が、従来の画像診断による治療選択より優れていることを検証する無作為化試験の必要性を述べた。また従来の画像診断で非転移性去勢抵抗性前立腺がん(nmCRPC)と診断された症例におけるPSMA-PET陽性の割合と、治療選択における課題についても説明した。

従来の画像診断で転移がなかった患者のなかにPSMA-PETでは陽性と診断される患者が見つかり、それらを転移症例の分類にアップステージングすると、もとの集団はこれらのオリゴ転移の患者を取り除くことで転帰が向上する。それと同時に転移症例の集団でも、オリゴ転移の患者が追加されるため転帰が底上げされる。これはPSMA-PETを用いることで病期変更を起こし、人工的に転帰を向上させているだけに過ぎないと強調した。

前立腺がん治療で重要な点は、全ての治療は臨床試験とその適格基準に基づいていること、そして全ての臨床試験では従来の画像診断が用いられていることである。だが、PSMA-PETにより治療選択や臨床試験の適格基準が変わる可能性がある。例えば、従来の画像診断ではM0と診断された場合、その患者の治療オプションは根治的前立腺全摘除術(RP)かアンドロゲン除去療法(ADT)+放射線療法(RT)、または極めて高リスクの場合は ADT+RT+アビラテロン(ABI)である。しかし、もしPSMA-PETでlow volumeまたはhigh volumeのM1と診断され病期変更が起きると、治療選択は大きく変わり、ADT+RTを選択するのはlow volumeの患者のみとなる。その他の治療オプションはADT+新規AR標的薬、ADT+ドセタキセル(DOC)、PEACE-1試験に基づきhigh volumeであればADT+DOC+ABIである。PSMA-PETの施行には治療アプローチが変わる可能性を念頭に置くことが重要であり、過剰治療のリスクを考えると必ずしも病期変更が患者にとって最善であるかは不明である。この問題の解決には、PSMA-PETに基づいた治療選択が従来の画像診断による治療選択より優れていることを検証する臨床試験が必要であるとOst氏は提言する。

一方、PSMA-PETには救済RT時に潜在的な役割があるかもしれない。例えば、GETUG-16試験の被験者では5年間の生化学的無再発生存率が60~80%であり1)、20~40%は遠隔転移を有する可能性が示されている。よって救済RTが検討される患者にPSMA-PETを行い、強化治療が必要な患者を同定できれば、転帰向上につなげることができる。ただ一方で、同試験の5年間のがん特異的生存率は99%であったことから、仮に救済RTの前に全患者にPSMA-PETを施行したとしても、これ以上がん特異的生存率を向上させることはできない。

EAUガイドラインでは2016年以降、PSA>0.5ng/mLの症例に対するPSMA-PETが推奨されているが、Ost氏はこの段階でのPSMA-PETの施行が転帰向上につながるかどうかは確信できず、混乱を招く可能性があると危惧する。例えばPSMA-PETで陰性の場合、ADTを行わず救済RTのみを施行すべきか、または経過観察するのか検討する必要がある。骨盤内に転移を認め救済RTを施行する患者の場合は、照射野を変えるだけで済むかも知れないが、骨盤外に転移が認められた場合は、①救済RTは断念すべきか、それとも施行すべきか(STAMPEDE試験の結果からlow volumeに対する局所療法は重要と位置付けられたため、局所コントロールを最適化し救済RTを施行する必要があるか?)、②転移指向性治療(無増悪生存期間の延長を認めたのは2つの第Ⅱ相試験のみ)、③全身療法の強化(無転移生存期間の延長は十分か? ADT+DOCまたは新規AR標的薬は過剰治療のリスクがないか?)など、治療選択がより複雑化する可能性がある。

次にOst氏は、従来の画像診断でnmCRPCとされPSMA-PETでは陽性と診断される患者の規模と治療選択について議論した。これまでの主な臨床試験では従来の画像診断を用いてnmCRPCの診断がされている。よってPSMA-PETを用いた診断ではnmCRPC患者の規模は縮小すると考えられる。Fendlerらの研究2)では、従来の画像診断でnmCRPCと診断された患者の98%がPSMA-PETでは陽性だったが、そのうち24%は局所再発のみであった。76%がN1/M1で、そのうち39%は骨盤外リンパ節転移のみであった。

同氏は、nmCRPCとmCRPCのどちらも標準治療は実質的には同じだが、病期がアップステージングするとアパルタミド(APA)とダロルタミド(DARO)の治療選択を失うことになると、病期変更の危険性を指摘する。またPSMA-PET陽性の患者が、たとえM1であったとしても、ENZまたはAPA、DAROによる治療をすべきではないと示唆するデータは存在しない。PSMA-PETが治療方針の決定や臨床転帰の予測に価値があることを示したデータはまだないと強調した。

Ost氏は結語として、PSMA-PETは人工的に転帰を向上させるが、過剰治療または過少治療をもたらす可能性があるとした。標準治療の決定には従来の画像診断を用いるべきであり、また臨床試験にPSMA-PETを導入する時がきたと述べた。そして、自分は救済RT後の生化学的再発時にのみPSMA-PETを使うだろうと付け加えた。


1) Carrie C, et al. Lancet Oncol. 2016; 17(6): 747-56.
2) Fendler WP, et al. Clin Cancer Res. 2019; 25(24): 7448-54.
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