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Genitourinary Cancer Today 2022 No.1
APCCC 2021

セッション1:新規診断の転移性ホルモン感受性前立腺がんにおける疾患管理

Session 1: Management of newly diagnosed metastatic hormone-sensitive prostate cancer

“トリプレット療法”のエビデンスとは?

What is the evidence for “triplet therapy”? 
Ian Davis氏(Monash University, Australia)
更新日:2022年2月4日
転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC)に対するアンドロゲン除去療法(ADT)+ドセタキセル(DOC)+追加的全身療法のエビデンスについて、Davis氏はトリプレット療法を施行した症例が含まれているTITAN試験、ARCHES試験、ENZAMET試験、PEACE-1試験、およびSTAMPEDE試験の5つの臨床試験の患者背景や評価項目、DOCの投与タイミング(追加的全身療法と同時投与か順次投与か)などにおける主な相違点を考察した。

TITAN試験はmCSPC 患者1,052例を対象にADT+アパルタミド(APA)とADT+プラセボを比較検討した試験で、被験者の63%が高リスク、81%が同時性のM1(synchronous: がん発見時に転移を有する)であった。DOCを投与したのは11%のみで、投与の有無は層別因子であった。DOCはAPAの投与前に施行し、DOCで進行した患者は試験から除外した。DOCのサイクル数中央値は6サイクル、同薬による特異的な安全性情報は報告されていない。サブグループ解析の結果、DOCを投与した集団と投与しなかった集団、またlow volume集団とhigh volume集団の間でAPAによる全生存期間(OS)延長効果の違いは認められなかった1,2)

ARCHES試験では、1,150例のmCSPC 患者をADT+エンザルタミド(ENZ)群とADT+プラセボ群に無作為化し検討した。被験者の63%が高リスク、67%が同時性のM1であった。18%がENZの投与開始前にDOCを投与されており、90%が6サイクル施行、DOCで進行した患者は除外された。DOC投与の有無は層別因子であった。DOC前治療の有無、または腫瘍量の違いによってENZの無増悪生存期間(PFS)およびOS延長効果に差はなかった3,4)

一方、ENZAMET試験はADT+ENZ(ENZ群)とADT+実薬(非ステロイド性抗アンドロゲン薬、対照群)を比較した無作為化試験である。被験者1,125例のうち53%がhigh volumeで、45%がDOCを同時投与されていた。DOCの投与は無作為化されたものではなく層別因子であり、施行例の61%がhigh volume、27%がlow volumeの患者だった。DOCを6サイクル施行したのは、ENZ群では76%、対照群は65%だった。ENZとの併用においてDOCの毒性の増加が認められたが、ENZとの因果関係は不明である。現在のところ中間解析の結果(計画イベント数の50%)のみ報告されているが、ADT+DOC+ENZのトリプレット療法は副次評価項目のPFSを大きく改善させた(ハザード比[HR] 0.48、95% CI: 0.37-0.62)が、OSの延長効果は認められていない(HR 0.90、95%CI: 0.62-1.31)5)

PEACE-1試験は1,052例のmCSPC 患者を対象にADT+DOC±アビラテロン(ABI)の併用を検討するプラセボ対照試験である。全例が同時性M1で、57%がhigh volumeの患者である。試験開始当初はADT単独投与だったが、途中からDOCの投与が許可され、のちに義務化されたため、被験者の60%がDOCを同時投与されている。DOCの投与有無は層別因子で、90%が6サイクル施行した。画像評価による無増悪生存期間(rPFS)は腫瘍量に関わらずABI追加群が有意に延長していた(HR 0.54、95% CI: 0.46-0.64、p<0.0001)。またDOC施行例においてもrPFSの有意な延長が認められた(HR 0.50、95% CI: 0.40-0.62、p<0.0001)。OSはhigh volume例でのみABI追加の有意な延長が示され(HR 0.72、95% CI: 0.55-0.95、p=0.019)、low volume例のデータは未成熟であった。DOCの安全性はABI併用のあり、なしで同様だった6)

STAMPEDE試験は、多群、多段階で構成されているが、登録された被験者のうち高リスクの非転移性(M0)患者1,974例において、標準治療(SOC;3年間のADT+局所放射線療法)の単独と、SOC+2年間のABI(±ENZ*)併用を比較検討した解析結果を考察した。被験者のうちN1は39%、前治療で再発していたのは3%だけだった。SOC群が988例、SOC+ABI(±ENZ)群は986例で、このうちENZを含めたトリプレット療法は527例で施行された。主要評価項目の無転移生存期間(MFS)と副次評価項目のOSは、SOC+ABI群とSOC+ABI+ENZ群のいずれも、SOC群に対し、それぞれ有意に延長していたが、SOC+ABI+ENZ群ではより高頻度にグレード3の勃起不全や高血圧、疲労などが発現していた。これより研究グループは、ABIへのENZの追加は毒性を増加させるが、有効性に対する明らかな効果はないと結論を述べている7)

Davis氏は以上のデータは大変興味深いが、現時点ではまだ情報が限られていると述べた。また安全性に関する詳細なデータや費用分析などの議論も必要となるほか、実臨床ではトリプレット療法の前にまず2剤併用を確立することが先決だと強調した。

*本邦における適応は去勢抵抗性前立腺癌、遠隔転移を有する前立腺癌


1) Chi KN, et al. N Engl J Med. 2019; 381(1): 13-24.
2) Chi KN, et al. J Clin Oncol. 2021; 39(20): 2294-303.
3) Armstrong AJ, et al. J Clin Oncol. 2019; 37(32): 2974-86.
4) Armstrong AJ, et al. Ann Oncol. 2021; 32(suppl5): S1300-1. 
5) Davis ID, et al. N Engl J Med. 2019; 381(2): 121-31.
6) Fizazi K, et al. J Clin Oncol. 2021; 39(15_suppl): 5000.
7) Attard G, et al. Ann Oncol. 2021; 32(suppl5): S1298.
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