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Genitourinary Cancer Today 2021 No.4
2021 JSCO・JSUO:膀胱がん

#臓器別シンポジウム13-4 浸潤性膀胱癌に対する膀胱温存療法 大阪医科大学での取り組み

東 治人氏(大阪医科薬科大学医学部 泌尿生殖・発達医学講座 泌尿器科学教室)
更新日:2021年12月22日
 筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)に対する透析併用バルーン塞栓動脈内抗がん剤投与(BOAI)によるシスプラチン(CDDP)投与+放射線療法は、膀胱全摘除術よりも生存率を向上させ、特にN1、T3以下の患者で高い効果が認められることが示された。

 MIBCにおける膀胱全摘除術後の5年生存率は50~60%にとどまっており、膀胱全摘除術に匹敵する、あるいは上回る治療成績を有する膀胱温存療法が求められている。米国放射線腫瘍研究グループは、膀胱温存療法として化学療法と放射線療法併用に関する6件の前向き試験を実施したが、ほとんどの5年生存率は60%以下であり、膀胱全摘除術をしのぐものではなかった1-4)
 一方、MIBCに対する抗がん剤動脈内注入と放射線療法併用による膀胱温存療法では、完全奏効率70~90%、5年生存率は70%前後といった報告が散見される5-8)。これらは症例数が少なく、後ろ向き試験であるものの、抗がん剤動脈内注入と放射線療法併用による膀胱温存療法の有用性を示唆するものである。

 同科では、腫瘍選択的に高濃度の抗がん剤(CDDP)を投与する方法が有用ではないかと考え、MIBC症例に対し透析併用BOAIによるCDDP投与と放射線療法とを併用する治療(大阪医大式膀胱温存療法;OMC療法)を開発し、これまで約30年間実施してきた。
 OMC療法とは、大腿動脈アプローチで2つのバルーンが付いた特殊なカテーテルを挿入し、膀胱動脈の前後でバルーンを固定して血流を遮断する。そこへCDDPを動脈内注入し、膀胱周囲組織局所に極めて高濃度のCDDPを投与し、骨盤内全照射をするものである。透析を併用することにより、CDDPの90%以上を除去することが可能となり、また2倍、3倍の抗がん剤をさらに投与して局所のみに高濃度の抗がん剤を投与することも可能である。
 なお、放射線照射は全骨盤に5週間で合計50Gy、全身化学療法としてGCを1クール投与している。

 OMC療法を実施したBOAI群570例と膀胱全摘除術群139例との比較では、BOAI群の10年全生存率は86.7%で、膀胱全摘除術群の49.2%と比較して有意に高かった(p<0.0001)。また、organ confined症例における検討では、BOAI群のT2(274例)、T3(110例)の10年全生存率はそれぞれ96.7%、89.1%で、膀胱温存率はそれぞれ80.7%、75.2%であった。
 さらに、リンパ節転移を有する症例では抗がん剤+膀胱全摘除術を施行しても5年生存率は30%以下とされているが、前述の検討におけるOMC療法を実施したリンパ節転移陽性症例(82例)の8年全生存率は56.6%であった。
 以上のことから、OMC療法は長期成績が良好で、長期に膀胱温存が可能な治療法であり、高濃度の抗がん剤と骨盤内放射線照射により骨盤内の微小リンパ節転移を消滅させることで生存率が向上すると考えられた。

 なお、OMC療法が施行されたN2-3症例の9年全生存率は36.5%で、N1症例の72.1%と比較して有意に低かった (p=0.0005)。また、OMC療法が施行されたT4症例の9年全生存率は44.8%で、T3以下症例の62.3%と比較して有意に低かった (p=0.0483)。

 OMC療法の課題として、T4およびN2-3の症例で治療効果が低いこと、および頻度は低いものの末梢神経障害の発現が挙げられる。同科では副作用の対策として、BOAI-ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の開発に取り組んでいる。BNCTではホウ素を腫瘍細胞の核に挿入することで、中性子の線量を正常細胞には影響を及ぼさない照射量にまで低下させることが可能である。中性子を照射するとホウ素の入った腫瘍細胞のみが選択的に破壊される仕組みである。BNCTでは、ホウ素は毒性がないため神経障害を及ぼさず、線量が少ない中性子照射のため放射線障害を軽減することが期待される。

 東氏は、「現在、膀胱がん細胞に親和性の高い構造化合物を開発しており、より体に優しい治療法としてBOAI-BNCT法を近く臨床応用したい」と展望を述べた。

1)Tester W, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1993; 25(5):783-90.
2)Tester W, et al. J Clin Oncol. 1996; 14(1): 119-26.
3)Shipley WU, et al. J Clin Oncol. 1998; 16(11): 3576-83.
4)Kaufman DS, et al. Urology. 2009; 73(4): 833-7.
5)Mokarim A, et al. Cancer. 1997; 80(9): 1776-85.
6)Eapen L, et al. J Urol. 2004; 172(4 Pt 1): 1276-80.
7)Sumiyoshi Y. Int J Clin Oncol. 2004; 9(6): 484-90.
8)Miyanaga N, et al. Jpn J Clin Oncol. 2007; 37(11): 852-7.
 
監修 菊地 栄次先生のコメント
大阪医科薬科大学医学部で考案された透析併用BOAI-CDDP+放射線療法の10年全生存率は86.7%、10年膀胱温存率は80.7%と、治療成績は驚異的である。
今後は、よりシンプルで安全性の高い治療様式へ改良が加えられ、本治療法が一施設にとどまらず、広く本邦で施行可能となることを期待したい。