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海外論文紹介
International Journal of Urology に掲載された最新の論文をご紹介いたします
日本人を対象としたコホート研究「Prostatic Cancer Registry of Standard Hormonal and Chemotherapy Using Bone Scan Index」より、骨転移を有する前立腺がん患者の予後を報告
Prognosis of patients with prostate cancer and bone metastasis from the Japanese Prostatic Cancer Registry of Standard Hormonal and Chemotherapy Using Bone Scan Index cohort study
Int J Urol. 2021 Sep; 28(9): 955-963.
溝上 敦 先生(金沢大学大学院医学系研究科 集学的治療分野 泌尿器科)
中嶋 憲一 先生(金沢大学先進予防医学研究科 機能画像人工知能学)
更新日:2021年12月22日
監 修
監修
金沢大学大学院
医学系研究科
集学的治療分野
泌尿器科
教授 溝上 敦先生
PROSTAT-BSI論文に関して
現在、前立腺がんの骨転移の評価方法は骨シンチグラフィがまだ主体である。しかし、骨シンチグラフィには、大まかにしか骨転移数をカウントできず、定量性に乏しいという問題点がある。このため、グローバルの臨床試験においては治療による骨転移の改善は全く評価されず、骨転移の悪化においてもPCWG2やPCWG3という実臨床とはそぐわない定義で骨転移が評価されていた。このような骨シンチグラフィの問題点を解決する方法として、BONENAVIという定量化ソフトが開発された。BONENAVIではBone Scan Index (BSI) という骨転移の指標が取り入れられ、治療による改善状況やがんの進行に伴う骨転移の悪化が定量的に評価できるようになった。このBONENAVIが実臨床において役立つかどうかを確認するために日本でmHSPC患者とドセタキセル使用直前のmCRPC患者を対象とした前向き観察研究PROSTAT-BSIが2012年から開始された。その結果、3年間の観察期間においてmHSPCではBSI>3.5%ならば全生存率は不良であるが、BSI≦3.5%では比較的予後良好であること、mCRPCでは有意差はなかったものの、BSI>4.0%で全生存率は不良であるが、BSI≦4.0%で比較的良好であることが明らかとなった。BONENAVIは治療効果、予後予測判定などにも有用で、今後骨転移の評価を行うのに役立つことが期待される。
概要
骨転移を有する転移性ホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)と転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)の日本人患者を対象に、全身骨シンチグラフィに基づき、全身骨に対する骨転移の割合を定量化したBone Scan Index(BSI)を用い、予後予測因子の同定を検討したコホート研究「Prostatic Cancer Registry of Standard Hormonal and Chemotherapy Using Bone Scan Index 」(PROSTAT-BSI)の結果が報告された。mHSPC患者における有意な予後不良因子として、ホルモン療法開始時のBSI(>3.5%)と、ホットスポット数(HSN)などが示された。骨転移を有する前立腺がん患者ではPSAにBSIとHSNを組み合わせることで、治療効果とリスク層別化の評価に役立つ可能性があると研究グループは述べている。
研究デザイン
研究デザイン
研究の対象は、骨転移を有する前立腺がんで、ホルモン療法開始予定のmHSPC患者、または化学療法(ドセタキセル)開始予定のmCRPC患者であった。国内の医療施設30カ所から計247例(mHSPC 148例、mCRPC 99例)が前向きに組み入れられた。全身骨シンチグラフィとPSA、骨代謝マーカー(血清1CTP、血清ALPおよびBAP)、血球数(ヘモグロビンおよびCRP)を治療開始前と治療開始後3カ月毎(12カ月間)、2年目と3年目の各時点1回ずつ評価した。骨シンチグラフィは診断支援ソフトBONENAVIを用いてBSIとHSNを計算した。BSI改善率は、フレア現象を考慮し、0カ月目または3カ月目のどちらか高い方の値から3カ月目または6カ月目のどちらか低い方の値への変化と定義した。
本研究は、治療介入や無作為化を行わない多施設観察研究である。患者がホルモン療法に難治性を示した場合は化学療法に切り替え、打ち切りと判断された後に27例がmCRPC集団に追加された。
主要評価項目は、ホルモン療法または化学療法開始後の全死および前立腺がん死であった。
結果
結果
観察期間の平均は被験者全体で716±404日、mHSPC集団で801±403日、mCRPC集団では591±374日であった。
ベースラインの患者背景は被験者全体で平均年齢70.5(±7.8)歳、グリーソンスコア中央値 9、非所属リンパ節転移31%、肺転移14%、肝転移2%で、これらの数値はmHSPC集団とmCRPC集団の間に有意差はなかった。PSA中央値は被験者全体で104 ng/mL、mHSPC集団261 ng/mL、mCRPC集団21 ng/mLでmHSPC集団が有意に高かった(p<0.0001)。
ベースラインの平均BSIは被験者全体が3.2(±3.4)%、mHSPC集団3.2(±3.6)%、mCRPC集団3.4(±3.3)%、平均HSNはそれぞれ32(±36)、30(±35)、36(±37)で、いずれもmHSPC集団とmCRPC集団の間に有意差はなかった。HSNとBSIは線形的に相関していたが(R2 = 0.86、p<0.0001)、PSAとBSIとの相関は相対的に低かった(R2 = 0.095、p<0.0001)。BSIフレア現象はmHSPC集団の12%とmCRPC集団の28%に発生した(p=0.0082)。
全死は被験者全体で33%、mHSPC集団20%、mCRPC集団52%、前立腺がん死はそれぞれ26%、15%、42%、PSA増悪はそれぞれ72%、62%、86%で、いずれもmCRPC集団がmHSPC集団と比べて有意に高かった(3項目全てp<0.0001)。
mHSPC集団をベースラインのBSIで3群(カットオフ値:<0.9%、0.9~3.5%、>3.5%)に分類し全生存期間(OS)を比較した結果、群間差はボーダーラインレベルの有意差(p=0.054)で、<0.9%の群と0.9~3.5%の群の2群間では有意差がなかった。カットオフ値を3.5%にし、≦3.5%の群と>3.5%の群の2群でOSを比較した場合は、>3.5%の群が≦3.5%の群より有意に悪化していた(p=0.018)。一方、mCRPC集団ではBSIのカットオフ値を<1.0%、1.0~4.0%、>4.0%とした3群比較、および4.0%をカットオフ値とした2群比較のいずれにおいても、有意な群間差は認められなかった。またPSA値によるOSの3群比較では、mHSPC集団(カットオフ値:<132 ng/mL、132~500 ng/mL、>500 ng/mL)に有意差がなかった(p=0.21)一方、mCRPC集団(カットオフ値:<13 ng/mL、13~55 ng/mL、>55 ng/mL)では有意な群間差が認められた(p=0.015)。
PSA増悪とBSI増悪についても同様に、前述のBSIカットオフ値でmHSPC集団とmCRPC集団をそれぞれ3群に分類し群間差を検討した結果、mHSPC集団ではBSIが高いほどPSA増悪とBSI増悪のいずれも有意に悪化していたが(PSA増悪:p<0.0001、BSI増悪:p=0.0008)、mCRPC集団ではどちらの評価項目についても有意な群間差はなかった。
mHSPC集団における全死の予測因子を多変量解析で検討した結果、HSN(p=0.037)が有意な関連因子であった。mCRPC集団では、単変量解析で複数の因子(ALP、BAP、1CTP、CRP、ヘモグロビン、BSI、HSN)が関連していたが、多変量解析で有意な関連性を示す因子はなかった。CRPが唯一ボーダーラインレベル( p=0.087)であった。
また、治療開始から6カ月後のBSI改善率の中央値(mHSPC集団45%、mCRPC集団20%)によって良好と不良の2つのグループに分類し、死亡率を比較したところ、mHSPC集団では不良のグループの死亡率が有意に高かったが(良好10% vs 不良24%、p=0.037)、mCRPC集団では2つのグループに有意差は認められなかった(良好43% vs 不良57%、p=0.33)。
考察
研究グループは、mCRPC集団においては多変量解析で全死の有意な予測因子が一つも認められなかったことについて、この疾患段階ではPSA、骨破壊と骨芽細胞の活性、貧血、CRPや内臓転移などが相乗的に影響しているのではないかと考察した。またmHSPC集団でベースラインBSIが<0.9%の群と0.9~3.5%の群の間にOSの有意差が示されなかったことについては、日本人患者は白人患者と比べて標準ホルモン療法や後治療への奏効が良好であることが、部分的に関係しているかもしれないと考察した。
まとめ
以上の結果から、ホルモン療法開始時のBSIが>3.5%であることが予後不良因子であり、mCRPCではPSAやBSI、CRPなどの複数が予後因子である可能性があるとした。結論として、従来の骨マーカーにBSIとHSNを組み合わせることで、転移性前立腺がん患者の治療効果とリスク層別化の評価を向上できる可能性があると述べた。
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