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Genitourinary Cancer Today 2025 No.2
第112回日本泌尿器科学会総会:腎細胞がん

SY5-1 IO時代のCytoreductive Nephrectomy(CN)の意義と課題(特に即時CNについて)

安部 崇重 先生(北海道大学大学院医学研究院 腎泌尿器外科学教室)
更新日:2025年7月1日
転移性腎細胞がん(mRCC)に対し、がん免疫療法(IO)やチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の併用が全身治療として施行されている現在、原発巣摘除(cytoreductive nephrectomy: CN)が先行される機会は減っている。しかし、CNにより自覚症状の改善が見込める、CN後の残存病変が少ないなどの特徴を有する症例では、CN先行が考慮され得る。手術の侵襲や全身治療の開始を遅らせることのメリットも考慮し、症例ごとに検討することが肝要である。

サイトカイン療法時代まではmRCCに対しCN後に全身治療を行うことが一般的であったが、この20年でmRCCの治療は大きく変わり、TKIやIOを用いた全身治療によって全生存期間(OS)5年も期待できるようになってきた。以降、CNのコンセプトは大きく変わり、『腎癌診療ガイドライン2017年版(2022年アップデート版)』では、mRCCにおけるCNは推奨グレードC2で、poorリスクやPS不良などの予後不良と考えられる症例では慎重に判断されるべきであるとされている1)。また、全身状態が良好で転移巣の腫瘍量が少ないなど予後良好と考えられる場合も、待機的CNを含めた原発巣切除について症例ごとに考慮されるべきであるとされており、即時CNは推奨されていない。EAUガイドライン2025においては、MSKCC poorリスク症例に対しCNを考慮する必要はないことが、エビデンスレベルstrongで推奨されている2)。これには、TKI時代に報告されたCARMENA試験、SURTIME試験という二つの重要な試験結果が背景にある。

CARMENA試験は淡明細胞型mRCC患者450例を対象に、即時CN後にスニチニブを投与する群とCNを施行せずスニチニブを単独投与する群が比較検討された3)。両群ともpoorリスクは4割超、転移部位数中央値は2、腫瘍径中央値はそれぞれ8.8cm、8.6cm、tumor burden中央値はそれぞれ14.0cm、14.4cmと、CNの恩恵を期待しにくい患者背景であった。主要評価項目のOSにおいてスニチニブ単独投与群の非劣性が証明され、MSKCCリスク分類で層別化した場合も同様の結果であった。

一方、SURTIME試験では、Culpの報告した予後不良因子4)が3つ以下の淡明細胞型mRCC患者99例を対象に、CNのタイミングが検討された5)。CN後にスニチニブを投与する群とスニチニブ投与後に待機的CNを施行する群を比較した結果、両群間の無増悪生存期間(PFS)に有意差は認められず、周術期合併症の頻度も同様の結果であった。ただし、不十分な患者数で行われたため、SURTIME試験の解釈には注意が必要である。
現在、IO治療における待機的CN については、NORDIC-SUN試験、PROBE試験により、その有用性が検討されている。

今後、即時CNに関するランダム化試験が行われる可能性は低いため、即時CNの実施については個々に検討する必要がある。即時CNを行うメリットには、症状の改善、全身治療の開始を遅らせることができるなどがあるが、デメリットとして手術により合併症が生じたり、PS不良になることで全身治療を受けられなくなる可能性がある。実際、CARMENA試験では18%の症例がCN後の全身治療を受けられなかったことが報告されている3)

即時CNが適した患者像としては、CNにより自覚症状の改善が見込め、CN後の残存病変が少ない症例と考えられる。転移巣に対するアクティブサーベイランスでは、mRCC患者52例を対象にしたPhaseⅡ試験で、試験登録から全身治療開始までの観察期間中央値は14.9カ月(95%CI 10.6-25.0)であったことや、CN後から全身治療開始までの観察期間中央値は16カ月(2-43カ月)であったことが報告されている6,7)。これは全身治療開始まで無治療で観察できる症例がいるということを示唆しており、その間、患者は薬物治療による副作用や経済的負担から解放される。

一方、IMDC poorリスクの症例、intermediateでリスク因子を2つ以上有する症例、CN後の残存病変が多い症例は即時CNの良い適応とは言えず、全身治療を先行することが望まれる。IO時代の研究でupfront CNによって良好な予後が得られたとする報告もあるが8)、当時CNを行うことができた症例は予後が良好な患者背景を有していたことに注意が必要である。最近のdeferred CNとupfront CNを比較したメタ解析では、deferred CNはOSの延長と関連していることが報告されている9)


1)  日本泌尿器科学会(編). 腎癌診療ガイドライン2017年版(2022年アップデート版). 株式会社メディカルレビュー社, 2022(大阪)
2)  Bex A, et al. Eur Urol. 2025; 87: 683-96.
3)  Méjean A, et al. N Engl J Med. 2018; 379: 417-27.
4)  Culp SH, et al. Cancer. 2010; 116: 3378-88.
5)  Bex A, et al. JAMA Oncol. 2019; 5: 164-70.
6)  Rini BI, et al. Lancet Oncol. 2016; 17: 1317-24.
7)  de Bruijn RE, et al. Urology. 2017; 109: 127-33.
8)  Bakouny Z, et al. Eur Urol. 2023; 83: 145-51.
9)  Esagian SM, et al. Eur Urol Focus. 2025; 11: 100-8.
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監修 江藤 正俊 先生のコメント
即時cytoreductive nephrectomy(CN)については、北海道大学大学院医学研究院 腎泌尿器外科学教室の安部崇重先生にご講演いただいた。サイトカイン時代は転移性腎がん(mRCC)の治療において転移巣があっても即時CNを行ってから薬物療法を行うのが一般的であったが、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)時代の臨床試験の結果から即時CNは減りつつあり、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)導入以降もその流れは続いている。しかし、即時CNのメリットとして症状の改善、全身治療の開始を遅らせることが可能などもあり、症例ごとに検討することの重要性も示していただいた。
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