top of page

Genitourinary Cancer Today 2025 No.2
第112回日本泌尿器科学会総会:前立腺がん
SP2-1 Perspectives on mCRPC treatment from the results of the Lu-PSMA-617 study
Lu-PSMA-617試験結果から見たmCRPC治療の展望
上村 博司 先生(湘南鎌倉総合病院 泌尿器科/前立腺センター)
更新日:2025年7月1日
本講演では、177Lu-PSMA-617に関する主な臨床試験のデータが紹介された。アンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)および化学療法後の転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者において、標準治療に177Lu-PSMA-617を追加することで、全生存期間(OS)と画像に基づく無増悪生存期間(rPFS)を延長することが認められた。また、日本人患者において、177Lu-PSMA-617はタキサン系薬剤による治療前後のいずれにおいても有効性が示されたことなどが報告された。
前立腺特異的膜抗原(PSMA)は、前立腺がん細胞の表面に発現する膜貫通タンパク質で、PSMA標的放射性リガンドで可視化することができる。またPSMAは、前立腺がん患者の8割以上に高発現するとされる1-7)。放射性リガンド療法は、PSMA PET/CTでがん細胞の位置を特定し、PSMAを標的としたトレーサーに放射性物質を結合させて曝露することにより、抗腫瘍効果を発揮する。
1種類以上のARPIおよびタキサン系薬剤による治療歴を有するPSMA陽性のmCRPC患者を対象とした第Ⅲ相VISION試験では、177Lu-PSMA-617と標準治療を併用する群と標準治療のみを行う群に2:1の割合で無作為化し、比較検討した結果、主要評価項目のrPFSおよびOSにおいて、177Lu-PSMA-617と標準治療の併用群がどちらも有意に延長したことが示された8)。OSのサブグループ解析では、肝転移患者を除き、概ね併用群が優位であった。
本邦で実施されたオープンラベル第Ⅱ相試験では、タキサン系薬剤の投与後(12例)と投与前(18例)における177Lu-PSMA-617を検討した結果、奏効およびPSA低下においてタキサン系薬剤投与前の集団が投与後の集団より良好な傾向があり、より早期の段階で177Lu-PSMA-617を使用する方が効果的である可能性が示唆された。主な有害事象は便秘(全グレードで53.3%)、食欲減退(同26.7%)などで、口渇(同16.7%)は海外報告より少なかったが、概ね既報の通りであった。
ドセタキセル治療後に進行したmCRPC患者を対象に177Lu-PSMA-617とカバジタキセルとを比較検討したTheraP試験では、OSに有意差は示されなかった9)。しかし、SUV(68Ga-PSMA-PET/CTによるPSMAの取り込み強度)が10以上の症例では、10未満の症例と比べ、どちらの群においてもOSが延長し、また、PSAが50%以上低下した症例の割合が高い傾向が示された。これらのことから、PSMAの取り込み量が治療効果の予測バイオマーカーとなる可能性があり、SUVが10以上のコホートに177Lu-PSMA-617が勧められる可能性が示唆された。
タキサン系薬剤の投与前に対する177Lu-PSMA-617を検討した試験には、PSMAfore試験がある。タキサン系薬剤の治療歴がなくARPIで進行したmCRPC患者547例において、177Lu-PSMA-617を投与する群(234例)と、ARPIをスイッチする群(234例)とを比較検討した第Ⅲ相試験で、ARPIスイッチ群では画像上の進行が認められた場合、177Lu-PSMA-617へのクロスオーバーが認められていた。177Lu-PSMA-617群はARPIスイッチ群と比べ、主要評価項目のrPFSが有意に延長し(HR 0.43、95% CI: 0.33 – 0.54、p<0.0001)、PSA 50%以上の低下を達成した割合も高かった10)。OSに有意差は認められなかったが、これはARPI群のクロスオーバー率(進行例の84.2% [123/146例])の高さによる影響が大きいと考えらえた。QOLについても、177Lu-PSMA-617群のほうが良好であった。
また、化学療法の治療歴のない高リスクmCRPC患者において177Lu-PSMA-617+エンザルタミド併用とエンザルタミド単独とを比較検討したENZA-P試験では、177Lu-PSMA-617+エンザルタミド併用群において、有意なOS延長が示された(HR 0.549、95% CI: 0.36 – 0.84、p=0.0053)。
以上のことから上村氏は、177Lu-PSMA-617は有望な治療法であり、本邦においてもmCRPC治療に早期に導入し、治療効果を最大化すべきであると述べた。
1) Hope TA, et al. J Nucl Med. 2017; 58: 1956-61.
2) Hupe MC, et al. Front Oncol. 2018; 8: 623.
3) Pomykala KL, et al. J Nucl Med. 2020; 61: 405-11.
4) Minner S, et al. Prostate. 2011; 71: 281-8.
5) Bostwick DG, et al. Cancer. 1998; 82: 2256-61.
6) Silver DA, et al. Clin Cancer Res. 1997; 3: 81-5.
7) Wright GL Jr, et al. Urol Oncol. 1995; 1: 18-28.
8) Sartor O, et al. N Engl J Med. 2021; 385: 1091-103.
9) Hofman MS, et al. Lancet Oncol. 2024; 25: 99-107.
10) Morris MJ, et al. Lancet. 2024; 404: 1227-39.
アンカー 1
監修 上村 博司 先生のコメント
mCRPC治療として期待されているLu-PSMA治療は、治療タイミングと患者選択が重要な課題である。グローバルのVISION試験では、新規ホルモン剤やドセタキセル治療後のLu-PSMA治療が有効であることが示されたが、国内試験ではn数が少ないが、ドセタキセル治療前の方が奏効率やPSA低下に有効な傾向が確認されている。TheraP試験では、SUV値が10以上の方がOSの延長効果を示しており、PSMA-PET/CTがLu-PSMAおよびカバジタキセルの治療効果の予測因子になる可能性が示されたことは興味深い。
bottom of page