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Genitourinary Cancer Today 2025 No.2
第112回日本泌尿器科学会総会:前立腺がん
PD2-1 転移性ホルモン感受性前立腺癌に対する治療
井上 貴博 先生(三重大学大学院医学系研究科 腎泌尿器外科)
更新日:2025年7月1日
進行性前立腺癌コンセンサス会議(APCCC) Japan 2025では、転移性ホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)に対する治療について、会場参加者(回答数35~41件)と昨年行われたAPCCC 2024のボーティングを対比させながら、high risk、high volumeのmHSPCに対するトリプレット療法や同時性mHSPCの転移巣に対する局所治療(MDT)、ダブレット療法またはトリプレット療法と放射線療法の併用に関する有用性が示された。
最初に行われた「high risk、high volumeの化学療法が適応となるmHSPCに対してトリプレット療法を行うか」のボーティングの結果は、「ほとんどの患者に行う」「患者を限定して行う」がそれぞれ約半数ずつであり、APCCC 2024の結果とほぼ同様であった。NCCNガイドラインにおいて、high risk、high volumeのmHSPCに対するトリプレット療法は、ダブレット療法とともに強く推奨されている1)。その根拠となったARASENS試験では、mHSPCに対しADT+ダロルタミド+ドセタキセルとADT+ドセタキセルを比較し、全体集団の全生存期間(OS)(HR: 0.68、95%CI 0.57-0.80、p<0.001)2)のほか、特にhigh volumeにおけるOSにトリプレット療法の優位性が認められた(HR: 0.69、95%CI 0.57-0.82)3)。
また、PEACE-1試験では、high volumeのmHSPCに対するADT+アビラテロン+ドセタキセルによる治療は、ADT+ドセタキセルよりもOSを有意に延長したことが報告されている(HR: 0.72、95.1%CI 0.55-0.95、p=0.019)4)。
当施設では、75歳以下、ECOG PS 0-1、グレードグループ5、内臓転移を含むなど、high volumeでより予後不良と判断される患者に限定し、ADT+ダロルタミド+ドセタキセルのトリプレット療法を実施している。
次に、「通常の画像検査でlow volume の同時性mHSPCに対し、MDTを行うか」のボーティングでは、「行う」が48%、「次世代画像検査(PSMA-PET;本邦未承認)で新たな病巣がないときに行う」が40%であり、APCCC 2024では後者が57%と最も多かった。同時性mHSPCに対するMDTの明確なエビデンスはないが、MDTを行う目的として、全身治療を可能な限り延期させ、ADTによる有害事象を回避すること、進行抑制や生命予後を延長するための集学的強化治療を行うことが挙げられる。
一方、異時性mHSPCの再発に対するMDTに関しては2つのphaseⅡ試験が行われており、Choline PETを用いたSTOMP試験ではMDT施行群でADT開始までの期間が延長したこと(HR: 0.60、95%CI 0.31-1.13、p=0.11)5)、通常の画像検査を用いたORIOLE試験においては無増悪生存期間(PFS)が有意に延長したことが報告されている(HR: 0.30、95%CI 0.11-0.81、p=0.002)6)。
3つ目の「全身治療で寛解したmHSPCに対し、有害事象が認められない場合、治療の中止を検討するか」のボーティングについては、47.4%が治療を継続、26.3%が24~36カ月後に中止すると回答し、APCCC 2024とは異なる傾向であった。長期のアンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)の投与は、ADT単独と比較し、心血管イベントや高血圧、骨折などの有害事象のリスクを高めるという報告がある7)。LATITUDE試験8)やTITAN試験9)で示されているようなADTによって長期に生命予後が得られる症例においては、治療の中止も考慮すべきであると考えられる。現在、DE-ESCALATE試験において、ADT+ARPIを6~12カ月投与後にPSA 0.2ng/mL未満のmHSPC患者を対象として、全身治療を中止または継続後の予後を比較検討する臨床試験が行われている。
最後の「high volumeの同時性mHSPCで局所症状がない場合、全身治療に加えて局所放射線療法を行うか」については、APCCC 2024では67%が「行わない」と回答していたのに対し、会場参加者の回答は「ほとんどの患者に行う」が12.7%、「患者を限定して行う」が50.7%であった。PEACE-1試験において、ダブレットおよびトリプレット療法への局所放射線療法の上乗せ効果を検討したところ、OSに差はなかったものの画像上のPFSが延長する傾向がみられた10)。さらに、放射線療法を追加することで泌尿器系の有害事象が抑制されたことから、特にhigh volume、high riskの症例に対しては限定的に放射線療法を行うことの有用性はあると考えられる。
JCOG 2011では、high volumeのmHSPCを対象にダブレット療法+局所放射線療法併用の有用性を検討する試験が進行中であるが、後ろ向きの解析では放射線療法の上乗せによるOSの延長が認められており(HR: 0.55、95%CI 0.37-0.81、p=0.002)11)、JCOG 2011の報告に期待が寄せられている。
1) NCCN Guidelines Version 2. 2025, Prostate
Cancer(https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/prostate.pdf)
2) Smith MR, et al. N Engl J Med. 2022; 386: 1132-42.
3) Hussain M, et al. J Clin Oncol. 2023; 41: 3595-607.
4) Fizazi K, et al. Lancet. 2022; 399: 1695-707.
5) Ost P, et al. J Clin Oncol. 2018; 36: 446-53.
6) Phillips R, et al. JAMA Oncol. 2020; 6: 650-9.
7) Turco F, et al. Eur Urol Focus. 2024; 10: 518-21.
8) Matsubara N, et al. Eur Urol. 2020; 77: 494-500.
9) Chowdhury S, et al. Ann Oncol. 2023; 34: 477-85.
10) Bossi A, et al. Lancet. 2024; 404: 2065-76.
11) Terada N, et al. BJUI Compass. 2020; 1: 165-73.
アンカー 1
監修 上村 博司 先生のコメント
「high risk /high volumeにTriplet治療を行う」がAPCCC 2024と同様に多かったことから、積極的な治療を取り入れている状況が推察された。「寛解しているmHSPCに新規ホルモン剤を継続する」という回答が半数近くあったが、長期間のCAB療法に慣れている本邦の泌尿器科医の背景がその結果をもたらしたといえるのではないか。「High volume mHSPCに局所放射線治療を行う」が3分の2を占めたのは、実臨床で放射線治療の局所コントロールを経験していることを反映していると思われた。
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