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Genitourinary Cancer Today 2025 No.2
第112回日本泌尿器科学会総会:膀胱がん
LB2-2 A Real-world observational study analyzing patient characteristics and clinical outcomes among patients with muscle invasive bladder cancer (MIBC) in Japan
日本の筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)患者における患者特性と臨床転帰を解析したリアルワールド観察研究
田岡 利宜也 先生(香川大学医学部 泌尿器・副腎・腎移植外科)
更新日:2025年7月1日
本邦の筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)患者では、膀胱全摘術(RC)または膀胱温存療法の一次治療後、約3割が2年以内に転移再発または死亡に至っていることが、医療データベースを用いた大規模観察研究の結果から明らかになった。RCを施行した患者においては、特に術後補助療法を受けた患者において予後不良な傾向があり、RC施行後の患者背景の違いによる影響も示唆された。膀胱温存療法では、2年以内に約60%で膀胱内再発または転移再発が確認され、患者選定や治療戦略の改善が急務であることが示唆された。
新規に診断された膀胱がん患者の4人に1人がMIBCである。これらの患者における5年全生存(OS)率は50%未満に留まっており1)、標準治療であるRCまたは一部の患者で施行されている膀胱温存療法の治療効果の向上が求められている。本研究では、日本国内のMIBC治療におけるアンメットメディカルニーズを特定するため、RCまたは膀胱温存療法を施行した患者の背景と治療内容を評価するとともに、無転移生存期間(MFS)と全生存期間(OS)について解析を行った。
医療データベース、メディカル・データ・ビジョン(MDV)を用い、2008~2022年に膀胱がんの診断を受けた患者のうち、一次治療の治療内容からMIBCと推定される患者を抽出し、RCと膀胱温存療法に分類した。主要アウトカムをMFSとOSとし、治療群間の患者背景を調整するため、傾向スコアを用いたIPTW法により統計解析を実施した。また、膀胱温存療法群においては、膀胱無再発生存率(Bladder-intact event-free survival, BI-EFS)も解析した。
解析対象となった4,769例のうち、RCを受けた症例は83%を占め、膀胱温存療法は17%であった。膀胱温存療法の内訳は、全身療法と放射線療法の併用が16%、膀胱部分切除術が1%であった。観察期間中央値は、RC群が42.93カ月に対し膀胱温存療法群は29.25カ月と短く、同療法が近年普及してきたことが背景として示唆される。また、膀胱温存療法群ではRC群に比べて平均年齢が高く、心疾患や自己免疫疾患などの併存疾患もやや多かったが、2群間に有意差は認められなかった。
MFS中央値はRC群が143カ月(95% CI: 122 - 未到達)、膀胱温存療法群109カ月(95% CI: 65 - 未到達)で、RC群のほうが膀胱温存療法群より良好な傾向が見られた。24カ月MFS率はRC群が73.2%、膀胱温存療法群は67.7%であり、両群ともに2年時点で約3割の患者が転移再発または死亡に至っている可能性が示唆された。24カ月OS率はRC群が86.8%、膀胱温存療法群は78.8%であった。
RC群が受けた周術期の治療は、術前補助療法のみがもっとも多く44.2%、次いでRC単独が36.6%、術前および術後の補助療法が10.4%、術後補助療法のみは8.8%であった。これら4集団の24カ月MFS率およびOS率は、術前補助療法のみの集団が79.6%、90.5%、RC単独集団が77.9%、86.5%、術前および術後補助療法を受けた集団で51.6%、83.6%、術後補助療法のみの集団は47.5%、74.1%であり、術後補助療法を受けた症例では予後不良である傾向が確認された。実臨床上、術後に不良な病理結果が出た症例を優先して術後補助療法を施行している現状があり、本解析においても術後の治療決定における選択バイアスの影響が示唆される。
膀胱温存療法群においては、70%強がシスプラチンを含む化学療法を受けていた。一方で、シスプラチン不適格患者に対するレジメンは多岐に渡っていた。また、膀胱温存療法群における24カ月BI-EFS率は38%で、1年時点で約半数が再発、転移または死亡しており、膀胱温存療法においてより慎重な患者選定や、薬剤の改善が強く望まれる。
1) Martini A, et al. BJU Int. 2020; 125: 270-5.
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監修 菊地 栄次 先生のコメント
本研究で示されたように、現時点では十分な周術期補助療法が実臨床で提供されているとは言い難い。近年報告されたNIAGARA試験では、術前にシスプラチンベースの化学療法に加え、抗PD-L1抗体 デュルバルマブを併用し、さらに術後もデュルバルマブを継続する術前後補助療法が採用されている。現在、新たな周術期補助療法の開発が進んでおり、誰もが納得できる生命予後の改善をもたらす治療法の登場が期待される。
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