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Genitourinary Cancer Today 2025 No.2
第112回日本泌尿器科学会総会:膀胱がん

LB2-1 A real-world observational study of treatment patterns and long-term clinical outcome in non-muscular invasive bladder cancer (NMIBC) in Japan
日本の筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)患者における治療パターンと長期的な臨床転帰に関するリアルワールド観察研究

三宅 牧人 先生(奈良県立医科大学 泌尿器科学教室)
更新日:2025年7月1日
新規診断の膀胱がんのうち、NMIBCは約75%を占める1)。標準治療とされる経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)と、それに続くリスクに応じた抗がん剤またはBCG膀注を併用しても約60~70%が膀胱腔内再発し、さらに10~20%が筋層浸潤がんへと進展する。本研究では、医療データベースを用いたリアルワールド観察研究を実施し、NMIBC患者の臨床的特徴や治療パターンを同定するとともに、日本の実臨床におけるアンメットメディカルニーズを把握するため、長期的な臨床転帰を評価した。

日本国内の470施設で治療を受けた約4,000万人の患者の請求データを網羅するメディカル・データ・ビジョン(MDV)の医療データベースを用い、診断コードから膀胱がん患者を抽出した後、NMIBCで用いられる一次治療を受けた患者をNMIBC患者と定義して抽出したところ、3万9,528例が解析対象となった。これらの患者を治療パターンに基づき、①術後単回抗がん剤膀注(immediate postoperative instillation of chemotherapy, IPIC群)、②複数回抗がん剤膀注(maintenance instillation of chemotherapy, mIC群)、③BCG膀注(BCG群)の3群に分類し、DFSおよび無転移生存期間(MFS)をカプランマイヤー法により解析した。

もっとも高頻度に施行された治療法はIPICで51%、次にBCG膀注が 36%、mICは13%であった。ベースラインの患者背景に群間差は認められなかった。観察期間中央値はIPIC群42カ月、mIC群51カ月、BCG群45カ月であった。

解析の結果、2年DFS率はIPIC群60%、mIC群63%、BCG群64%と、いずれの治療を受けても約4割は再発することが示された。2年MFS率は、各々95%、94%、95%であった。

さらに、これらの患者群で施行された二次治療を追跡すると、IPIC群とmIC群では約30%がBCG膀注、約40%が抗がん剤膀注(±TURBT)を受けていた一方、BCG群の再発例ではTURBTだけに留まっている患者が39.1%と最多を占めていた。これらの標準治療を受けても再発例が多く、また一次治療後の再発例において後治療の治療指針が定まっていないというアンメットニーズが明らかとなった。

BCG群のうち、導入療法を完遂した症例(5回以上連続投与;90.8%)と完遂しなかった症例(5回未満の投与;9.2%)に分類し解析した結果、2年DFS率は導入療法を完遂した症例が68%、完遂しなかった症例は62%であり、完遂した症例で延長する傾向が示された。また、導入療法を完遂した症例のうち、維持療法を施行したのが58.3%で、維持療法を施行しても6カ月以内に再発した症例(BCG Unresponsiveと定義)は5.4%であった。一方、維持療法を施行せず12カ月以内に再発した症例(BCG Experiencedと定義)は7.5%で、これらのデータはJapan Urological Oncology Group(JUOG)から報告されている日本人データと近似していた。DFS中央値は、BCG Unresponsiveが5.95カ月、BCG Experiencedが7.23カ月で、症例全体と比較し著しく短かった。BCGに奏効する症例がいる一方で、BCGが奏効しない症例もおり、予後に大きな隔たりが存在した。

三宅氏は、NMIBCに対する現行の標準治療では再発率が高く、再発後の有効な逐次治療も定まっていないとし、今後は新規一次治療の開発・導入とともに新たな治療戦略が必要であると結論した。


1)  NCCN Guidelines, Bladder Cancer. Version 1. 2025. 
 (https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/bladder.pdf)
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監修 菊地 栄次 先生のコメント
低リスクにはIPIC、中リスクにはmIC、高リスクにはBCGが選択されたと想定されるが、いずれの治療でも約4割が再発するとの研究結果であり、現行治療法の限界を示している。現在、BCG unresponsive、BCG experiencedや初発NMIBCを対象とした臨床試験が世界的に進行しており、今後の有効な治療選択肢の登場に大きな期待が寄せられている。
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