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Genitourinary Cancer Today 2021 No.4
2021 JSCO・JSUO:前立腺がん
#白熱討論6-2 術前補助療法+手術
Neoadjuvant Chemohormonal therapy for high-risk prostate cancer
畠山 真吾氏(弘前大学大学院医学研究科 先進血液浄化療法学講座)
更新日:2021年12月22日
術前補助療法としてのアンドロゲン遮断療法(ADT)と低用量のエストラムスチン(EMP)を併用するupfront EMP療法の有効性と、upfront EMP療法においてリンパ節(LN)郭清の有無で生化学的非再発率(bRFS)に有意な差はないことが示された。現在進行中の試験結果によっては、高リスク前立腺がんの標準治療が変わる可能性が期待される。
現在、高リスク前立腺がんに対する術前補助療法を用いた治療戦略として、ADT+根治的前立腺全摘除術(RP)はRP単独よりも劣り、ADT+放射線治療(RT)はRT単独よりも優れることが明らかにされている。しかし、ADT+RPとADT+RT、ADT+RPとRP+拡大骨盤内リンパ節郭清(ePLND)の直接比較はされておらず、それらの優劣は不明である。
EAUガイドライン20211)では、手術は集学的治療のひとつとして施行すべきとされ、ePLNDも推奨されているが、集学的治療の具体的な組み合わせは示されておらず、ePLNDの有効性についてもいまだ確立されていない。また、術前補助療法も強く推奨されていない。
メタアナリシスにおいても、術前補助療法は断端陽性を有意に減少させるが、無病生存期間(DFS)や全生存期間(OS)に有意差は認められず、高リスク前立腺がんは局所の改善では根治できない全身病であることが示唆されている2)。これらのことから、高リスク前立腺がんには局所介入に加えて長期ADTが必要と考えられるが、長期ADTによる有害事象やQOLの低下、治療コストなども考慮しなければならない。
そこで、短期のADTとRPによる治療が有効ではないかと考えられ、術前ADTに半量のEMPを6~9カ月間併用するupfront EMP療法に関する検討が、みちのくstudy(前立腺全摘シリーズ)で実施された。Upfront EMP+RP(210例)とRP単独(210例)とを比較した結果、bRFSは背景因子調整後においてもupfront EMPの方が有意に優れていた(p<0.001)3)。
また、RTとの比較も検討されている。高リスク前立腺がんを対象としたupfront EMP(ADT 8カ月)+ロボット支援前立腺全摘除術(RARP)516例とADT/CAB(14カ月)+RT(351例)との比較では、bRFSはADT/CAB+RT群で有意に優れていたが(p<0.001)、CRPC-free生存期間およびOSにおいては両群間に有意差は認められなかった。
一方、ePLNDの治療的意義については議論が続いているところだが、ePLNDの有効性を検討した臨床試験でもbRFSにおける有効性は示されておらず4,5)、みちのくstudy(前立腺全摘シリーズ)で実施されたePLNDとupfront EMP療法を比較した検討でも、ePLND群のbRFSおよびOSはupfront EMP療法群に比べて有意に劣り(それぞれp<0.001、p=0.043)、CRPC率においてもePLND群7%に対しupfront EMP群は3%、5年間の治療コストもupfront EMP群の方がePLND群より約450万円安価であった6)。
同科では以前は閉鎖節周囲の限局LN郭清を行っていたが、LN郭清を行い術前補助療法なし(486例)のLN転移は41例(8.4%)、LN郭清を行い術前補助療法あり(380例)のLN転移は
3例(0.8%)であったことから、2015年11月以降はupfront EMP療法後のLN郭清は実施しないこととした。そこで、2012~2020年にupfront EMP療法を実施した高リスク前立腺がん症例のうち、郭清あり(152例)と郭清なし(229例)を後方視的に検討した結果、2年bRFSは郭清あり群95%、郭清なし群87%、3年bRFSはそれぞれ89%、86%と有意差は認められず、背景因子調整後も同様の結果であった(ハザード比=0.78、95%信頼区間: 0.42-1.43、p=0.413、Cox回帰分析)。
畠山氏は、「Upfront EMP療法+RPは ADT+RTに比べPSA再発は劣る傾向にあるが、治療選択肢のひとつと考える。LN郭清については検討すべき課題が多く、現在進行中のアパルタミドを術前補助療法に用いたPROTEUS試験や郭清の有無を比較する試験の結果に期待している」と展望を述べた。
1)European Association of Urology (EAU), Guideline for Prostate Cancer, 2021(https://uroweb.org/guideline/prostate-cancer/)
2)Shelley MD, et al. Cancer Treat Rev. 2009; 35(1): 9-17.
3)Koie T, et al. Int J Clin Oncol. 2015; 20(5): 1018-25.
4)Touijer KA, et al. Eur Urol Oncol. 2021; 4(4): 532-9.
5)Lestingi JFP, et al. Eur Urol. 2021; 79(5): 595-604.
6)Matsumoto T, et al. Med Oncol. 2017; 34(12): 190.
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監修 溝上 敦先生のコメント
CRPCに対してはドセタキセル(DOC)が有効であるが、これまでの報告では高リスク前立腺がんに対するupfront DOC+RPの有効性は否定的である。おそらく、DOCはアンドロゲン感受性前立腺がん細胞に対しては有効性が低いからである。しかし、本研究では高リスク前立腺がんに対するupfront EMP+RPの有効性が示された。これは高リスク前立腺がんに混在するアンドロゲン感受性がん細胞と非感受性がん細胞の両方に有効性が期待できるEMPをupfront治療として行ったことが、この結果を生んだのだろうと私は考える。
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