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Genitourinary Cancer Today 2025 No.1
ASCO-GU 2025:前立腺がん

#17  転移性去勢抵抗性前立腺がんにおいて[177Lu] Lu-PSMA-617+エンザルタミド併用を検討したENZA-p試験の全生存期間およびQOL:非盲検多施設共同無作為化第Ⅱ相試験より副次評価項目の結果

Overall survival and quality of life with [177Lu] Lu-PSMA-617 plus enzalutamide in metastatic castration-resistant prostate cancer(ENZA-p): secondary outcomes from an open-label, multicentre, randomised, phase 2 trial
Louise Emmett 先生 (St Vincent’s Hospital, Sydney)
更新日:2025年4月14日
エンザルタミドの治療に対し早期進行リスクを伴う前立腺特異的膜抗原(PSMA)陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者において、エンザルタミドと177Lu-PSMA-617併用の一次治療は、エンザルタミド単独と比べ、全生存期間(OS)と健康関連QOLを有意に向上させたことが、第Ⅱ相ENZA-p試験の結果から明らかになった。

化学療法歴のないmCRPC患者においてエンザルタミドの単剤療法を検討したPREVAIL試験では、治療早期に抵抗性や進行を示す患者が多く認められた。ENZA-p試験の目的は、エンザルタミドに177Lu-PSMA-617を追加することで、転帰が改善するかどうかを検証することであった。

アンドロゲン受容体とPSMA受容体は前立腺がん細胞の中で非常に強い細胞内関係を持っており、特にmCRPCにおいてアンドロゲン受容体を阻害するとPSMA受容体の発現が上昇することがわかっている。本試験のトランスレーショナル研究によると、エンザルタミド投与開始から最初の15日間で、約70%の患者がPSMA受容体の発現を上昇させ、エンザルタミド単剤治療中にPSMA受容体の発現が上昇した患者は無増悪生存期間(PFS)が短かった。したがって本試験では、mCRPCには非常に不均一な集団が存在し、より攻撃的な細胞やアンドロゲン抵抗性の細胞では、エンザルタミドを投与するとPSMA発現が増加するとの仮説を立てた。

177Lu-PSMA-617はPSMA発現が増加している細胞に高い効果を示す。よって、悪性度の高い細胞のPSMA発現を上昇させ、それらを除去できれば、PSMA発現が低い細胞集団が残ることになり、エンザルタミドにより長期間奏効を得られる可能性がある。

本試験の対象は、化学療法による治療歴がなく、[68Ga]Ga-PSMA-11 PET/CTでPSMA陽性病変が確認され、エンザルタミドの治療早期に進行するリスク因子が2つ以上あるmCRPC患者であった。PSMA-PETでの適格基準は、少なくとも1カ所の病変でSUVmaxが15以上、かつ測定可能な全病変でSUVmaxが10以上であることだった。早期進行のリスク因子には、診断時に新規の転移病変あり、初回診断から3年未満、骨転移5カ所超、内臓転移あり、PSA倍加時間が84日未満、アビラテロンによる前治療歴ありなどが含まれた。

162例が登録され、エンザルタミド(160 mg/日)を投与する群(エンザルタミド単独群)に79例、エンザルタミドと177Lu-PSMA-617(7.5GBqを6~8週毎、2~4回投与)を併用する群(エンザルタミド+177Lu-PSMA-617併用群)に83例が無作為に割り付けられた。177Lu-PSMA-617は、全患者に2回投与し、92日目のPSMA PETによる中間評価で残存病変が認められなければ、それ以上の投与は行わず、病変が確認された場合には、さらに2回の追加投与が施行された。その結果、81%の患者が計4回の投与を受け、11%が2回の投与で終了した。層別因子は、医療施設、腫瘍量、ホルモン感受性前立腺がんに対する早期ドセタキセル使用、アビラテロン治療歴であった。 
主要評価項目はPSAに基づくPFS(PSA-PFS)、主な副次評価項目はOS、健康関連QOL、画像診断に基づくPFS(rPFS)などであった。

ベースラインにおける年齢中央値は両群71歳、登録時のPSA中央値はエンザルタミド単独群33 ng/mL、エンザルタミド+177Lu-PSMA-617併用群39ng/mL、画像スクリーニング時にPSMA高発現の転移病変が20超だった患者は各々59%、61%、診断時に新規の転移病変を有していたのは58%、52%、ホルモン感受性前立腺がんで早期にドセタキセルを使用していたのは57%、53%、アビラテロン治療歴がある患者は11%、14%だった。

中間解析から、PSA-PFSはエンザルタミド+177Lu-PSMA-617併用群で有意に延長したことが既に報告されている(ハザード比[HR] 0.43、95% CI: 0.29 – 0.63、p<0.0001)1)。今回発表された最新データでは、HRが0.40(95% CI: 0.28 – 0.59、p=0.000001)、中央値はエンザルタミド単独群7.8カ月、エンザルタミド+177Lu-PSMA-617併用群13カ月で、中間解析から大きな変化はなかった。rPFSはHRが0.61(95% CI: 0.42 – 0.87)、中央値はエンザルタミド単独群14カ月、エンザルタミド+177Lu-PSMA-617併用群17カ月だった。

OSの中央値(最終データカットオフ日:2024年7月31日、観察期間中央値34カ月)は、エンザルタミド単独群が26カ月、エンザルタミド+177Lu-PSMA-617併用群が34カ月、HRは0.549(95% CI: 0.36 – 0.84、p=0.0053)で、併用群のほうが有意に延長した。エンザルタミド単独群では38%が、オフプロトコルで後治療として177Lu-PSMA-617の治療を受けていた。

また、身体機能の低下を伴わない生存期間の中央値は、エンザルタミド単独群3.4カ月、エンザルタミド+177Lu-PSMA-617併用群10.6カ月(HR 0.51、95% CI: 0.36 – 0.72、p=0.0001)、全体的な健康状態が悪化せずに生存していた期間の中央値は、各々3.3カ月、8.7カ月(HR 0.47、95% CI: 0.33 – 0.67、p<0.0001)で、いずれも併用群のほうが有意に長かった。

健康関連のQOLでは、倦怠感と疼痛の解析結果が報告された。平均スコアにおける群間差は倦怠感が5.9(95% CI: 1.1 – 11、p=0.02)、疼痛が7.3(95% CI: 1.6 – 13、p=0.01)で、いずれもエンザルタミド+177Lu-PSMA-617併用群のほうが有意に良好であった。

グレード3~5の有害事象は、エンザルタミド単独群の44%、エンザルタミド+177Lu-PSMA-617併用群の46%に発現し、グレード5の有害事象はエンザルタミド単独群では1例、エンザルタミド+177Lu-PSMA-617併用群では4例に認められた。グレード3の主な有害事象は、貧血(エンザルタミド単独群0% vs エンザルタミド+177Lu-PSMA-617併用群4%)、倦怠感(同3% vs 2%)、血小板減少(同0% vs 1%)、白血球数減少(同1% vs 1%)であった。


1) Emmett L, et al. Lancet Oncol. 2024; 25(5): 563-71.

                                 (Tomomi Morinaga)
アンカー 1
監修 上村 博司先生のコメント
PSMAfore試験の結果を受けて、FDAは2025年3月に化学療法未治療のmCRPCに対しても177Lu-PSMA-617(PSMAルテチウム治療)を認可した。本試験では、エンザルタミドの早期進行リスクがあるmCRPC症例に対して、エンザルタミドとPSMAルテチウム治療の併用はOSを延長する有効性を示している。アンドロゲン受容体に対して強い作用のある新規ホルモン剤がPSMA発現を高める機序に則した試験デザインで、その臨床結果がmetしたことはとても興味深い。
高リスク(ARSIが効きにくい)のmCRPC症例に対して、エンザルタミドとPSMAルテチウム治療の併用が、mCRPCの一次治療になる可能性がある。
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