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Genitourinary Cancer Today 2025 No.1
ASCO-GU 2025:前立腺がん

#16 177Lu-PSMA-617を評価したPSMAfore試験のmCRPC患者における、ベースラインおよび治療中のctDNA割合と臨床転帰との関連性

Association of baseline and on-treatment ctDNA fraction with clinical outcomes in patients with mCRPC in the PSMAfore study of 177Lu-PSMA-617
Johann de Bono 先生 (The Royal Marsden Hospital, London)
更新日:2025年4月14日
タキサン系化学療法の治療歴がない、前立腺特異的膜抗原(PSMA)陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)の患者において、177Lu-PSMA-617を検討した第Ⅲ相PSMAfore試験の探索的解析から、ベースラインおよび治療初期の循環腫瘍DNA(ctDNA)の割合が、画像診断に基づく無増悪生存期間(rPFS)と全生存期間(OS)に関連することがわかった。ctDNAが検出された集団は検出されなかった集団と比べrPFSとOSが悪化しており、その関連性はベースライン時のctDNA割合より治療2サイクル目初日(C2D1)のctDNA割合の方がより強かった。また、ctDNA割合が低いほど腫瘍縮小効果が良好であることや、ベースラインからC2D1にかけてctDNAが消失すると、rPFSおよびOSが延長することなども示された。

本試験の主な組入れ基準は、①進行性mCRPC、②[68Ga]Ga-PSMA-11 PET/CTでPSMA陽性転移病変が1つ以上あり、除外基準に該当するPSMA陰性病変がない、③アンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI) 1剤の治療後に進行、④タキサン系化学療法の治療歴がない、⑤PARP阻害薬の治療候補ではない、⑥ECOG PSが0~1などであった。被験者は1:1の割合で177Lu-PSMA-617を投与する被験者群(177Lu-PSMA-617群)かARPI(アビラテロンまたはエンザルタミド)を変更する被験者群(ARPI変更群)に無作為に割り付けられた。ARPI変更群では盲検下独立中央判定(BICR)で画像上の進行が認められた場合、177Lu-PSMA-617へのクロスオーバーが認められていた。

主要評価項目はBICRによるrPFS、主な副次評価項目はOS、副次評価項目はPSAの50%以上の低下(PSA 50)、探索的評価項目として、奏効率、バイオマーカーとの関連性などが設定されていた。2回目のOS中間解析(カットオフ日:2023年6月21日)では、177Lu-PSMA-617群はARPI変更群と比べ、ベースラインのctDNA割合に関わらずrPFSが延長したことが明らかになったほか、ctDNA割合が高いことや、8q、ARおよびTP53の変異が転帰悪化と関連したことが既に報告されている1)

今回は、2024年2月27日をカットオフ日とする3回目のOS中間解析のデータから、ベースラインとC2D1のctDNA割合と、rPFSおよびOSとの関連性を評価し、予後バイオマーカーおよび治療反応バイオマーカーとしてのctDNA割合の有用性を検討した。解析にはCox回帰モデルを使用し、モデルベースのクラスタリング手法を用いて年齢やPSA、ARPI使用歴、ECOG PSなど17種類のベースラインの臨床変数で調整した。

その結果、177Lu-PSMA-617群において、ctDNAが検出された集団は検出されなかった集団と比べrPFSとOSが悪化しており、その関連性はベースライン時のctDNA割合よりC2D1のctDNA割合の方がより強いことがわかった。ベースラインのctDNA割合に基づいた解析では、rPFS中央値はctDNAが検出された集団で7.9カ月、検出されなかった集団では14.4カ月で、検出されなかった集団に対する検出された集団のハザード比(HR)は5.9(95%CI: 1.5 – 22.6、p=0.01、C-指数 0.69)であった。これに対しC2D1のctDNA割合に基づいた解析のrPFS中央値は、ctDNAが検出された集団が3.6カ月、検出されなかった集団が14.2カ月、HRは48.2(95%CI: 10.2 – 228.5、p<0.0001、C-指数 0.72)と、HRが大幅に高かった。

OSも同様の傾向があり、ベースライン時にctDNAが検出された集団のHRは11.7(95%CI: 2.9 – 47.5、p=0.00058、C-指数 0.75)であったのに対し、C2D1でctDNAが検出された集団のHRは86.8(95%CI: 17.3 – 436.3、p<0.0001、C-指数 0.78)と、C2D1のctDNA割合の方が非常に強い関連性を示した。ベースラインのctDNA割合とC2D1のctDNA割合の両方を組み込んだ統合Cox回帰モデルにおいても、ベースラインのctDNA割合はC2D1のctDNA割合に比べ予測精度を向上させないことが示された。また、ARPI変更群でも、ctDNA割合とrPFSとの関連性において同様の傾向が見られた。

177Lu-PSMA-617群におけるRECIST評価の腫瘍縮小効果は、ベースラインとC2D1のどちらにおいても、ctDNA割合が低いほど良好であった。PSA 50についても同様で、PSA 50を達成した患者はctDNA割合が低い傾向があり、C2D1のctDNA割合との関連性が特に強かった。

さらに、ctDNAの消失が、rPFS延長と関連していることもわかった。ctDNAがベースラインで検出されC2D1では検出されなかった患者のrPFS中央値は11.5カ月で、ベースラインとC2D1の両時点で検出された患者(2.5カ月)、またベースラインでは検出されずC2D1で検出された患者(5.8カ月)より長く、さらに、どちらの時点でもctDNAが検出されなかった患者(11.5カ月)と同等であった。PSA 50を達成した患者のrPFS中央値は14.5カ月、達成しなかった患者は5.8カ月だった。rPFSのHRは、PSA 50を達成した患者が0.32(95%CI: 0.20 – 0.52、p<0.0001)であったのに対し、ctDNAが消失した患者は0.12(95%CI: 0.031 – 0.49、p=0.0029)で、PSA 50よりもctDNA消失の方がrPFSの延長とより強く関連することが示された。OSにおいても同様の関連性が見られた。

また、ベースラインでctDNAが検出された集団において、PSA 50を達成せずC2D1でctDNAが検出された患者のrPFS中央値は3.7カ月であったのに対し、PSA 50は達成しなかったがctDNAが検出されなくなった患者のrPFS中央値は6.9カ月と延長していた。これらのデータから、rPFSおよびOSモデルにおいて、治療初期におけるctDNA割合の変動は、PSAでは捉えきれない追加的な情報を提示することが示唆された。

de Bono氏はこれらのバイオマーカーを当局の承認を得て、日常臨床においてmCRPCおよびHSPC患者の治療効果測定として使用するには、複数の第Ⅲ相試験が必要と考えると述べた。


1) de Bono JS, et al. J Clin Oncol. 2024; 42 (16 suppl): 5008. 

                                 (Tomomi Morinaga)
アンカー 1
監修 上村 博司先生のコメント
177Lu-PSMA-617(PSMAルテチウム治療)がmCRPCの全例に効果がある訳ではない。6週間隔の6回投与までの放射線治療であるが、治療効果および予後予測因子としての有用なバイオマーカーは報告されていない。本試験の結果より、ctDNA割合が低い場合は治療効果とOSの延長を示したことは、mCRPC治療として化学療法前にPSMAルテチウム治療を行う選択条件となり得ると思われる。転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC)の治療でダブレットやトリプレットのアップフロント治療後に適切なmCRPC治療選択がない現状において、ctDNA割合は治療方針決定に有用なバイオマーカーとなる可能性が示された。
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