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Genitourinary Cancer Today 2021 No.4
2021 JSCO・JSUO:膀胱がん

#白熱討論4-4 Neoadjuvantか?Adjuvant療法か? ―IO時代の至適対象・レジメの未来像―

Neoadjuvant or Adjuvant therapy?
-The future prediction of optimal subjects and regimens in the IO era-
田岡 利宜也氏(香川大学医学部 泌尿器・副腎・腎移植外科)
更新日:2021年12月22日
 筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の周術期薬物療法において、近年、がん免疫療法(IO)を用いたレジメンの有用性、および効果予測因子や予後予測因子が明らかにされつつある。今後、それらの因子を用いて患者ごとに術前補助化学療法(NAC)、術後補助療法、さらにIOを含めた新規レジメンの治療選択がなされることが示唆された。

 膀胱がんの約70%は筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)と診断されるが、NMIBCの約15~30%は経過中にMIBCとなり、その約半数は転移へと進展する。転移に至った膀胱がんの5年生存率は約6.4%とされている。近年、ペムブロリズマブやアベルマブが承認され、化学療法+IO併用も検証されているが、転移性尿路上皮がんの全生存期間(OS)の中央値は2年前後にとどまっており、MIBCから転移がんへ進展させない治療戦略が求められている。

 MIBCの標準治療は膀胱全摘除術(RC)を基本とし、シスプラチン適格症例に対してはNACとしてdose-dense MVAC(dd-MVAC; メトトレキサート+ビンブラスチン+ドキソルビシン+シスプラチン)またはGC(ゲムシタビン+シスプラチン)が推奨されている。その背景にはNACによるOSのベネフィットがあり、NAC施行群はRC単独治療群に比べてOSを有意に改善することがメタアナリシスでも示されている(ハザード比[HR]=0.87、95%信頼区間[CI]: 0.79-0.96)1)。また、ypT0pN0(ypCR)を達成するか否かによってOSに大きな差が認められる2)ため、NACには高いypCR率が求められる。

 周術期補助治療におけるレジメンの違い(GC vs. dd-MVAC)を検証したVESPER試験3)では、dd-MVACを用いたNAC群の3年無増悪生存率は66%であり、GCを用いたNAC群の56%と比較して有意に高かった(p=0.025)。また、OSの延長効果も有する可能性が報告されている。同研究では、dd-MVACを用いたNAC 6サイクルでypCR率=42%が達成され、完遂率は60.3%であった。
 この他にも、高いypCR率を目指して化学療法にIOを上乗せする第Ⅱ相試験がいくつか実施されており、dd-MVACを用いたNAC 6サイクルと同等のypCR率が報告されている4-6)

 シスプラチン不適格症例においても、IO単独またはIO+IO併用を用いた第Ⅱ相試験が実施されており、良好なypCR率が報告されている7-10)。なかでも、IO単剤を用いたPURE-01試験11)、ABACUS試験10)ではバイオマーカー検索がなされ、ベースラインにおけるPD-L1の高発現または遺伝子変異量(TMB)の高スコアがypCR率の高さと相関したこと、およびCD8の存在はypCR率を高め、OSの延長につながる可能性が示された。

 以上の結果は、シスプラチンの適格性にかかわらず、将来的にNAC全体でIOレジメンが導入され、IOレスポンダーを推定するバイオマーカーを用いた個別化医療が展開される可能性を示唆するものである。

 一方、術後補助療法は、NAC未実施かつ再発リスクの高い症例にのみ推奨されている。MIBCを対象としたEORTC 30994試験12)では、術後補助化学療法が無病生存期間(DFS)を延長するものの、OS改善には寄与しないことが明らかになった。同様の結果が腎盂・尿管がんを対象としたPOUT試験でも報告されている13)

 現在、RC後に再発リスクの高い症例を対象に、術後補助療法としてIOの有用性を検証する
3つの第Ⅲ相試験が稼働している。このうち、CheckMate-274試験ではニボルマブを用いた術後補助療法としてのIOがプラセボに比べ有意にDFSを延長し(HR=0.70、98.31%CI: 0.54-0.89、p<0.001)、さらに、NACが施行された症例においてIOのDFS延長効果がより高まることが示された(HR=0.53、95%CI: 0.39-0.72)14)。また、同試験ではPD-L1発現量が術後補助療法としてのIOの効果予測因子となることや、IMvigor 010試験15)ではctDNAが予後予測因子となることも示されている。
 これらの結果から、IOを中心とした術後補助療法の新時代が来ることが予想される。また、術後補助療法のレジメン選択や施行タイミングの決定に、ctDNAやmolecular subtyping16)が利用されることも示唆される。

 田岡氏は、「IOが導入されることによる、MIBC対する周術期補助薬物療法の治療成績向上に期待が持たれている。新規バイオマーカーやmolecular subtypingを用いて、術前/術後補助療法の最適化を図る時代が到来する」と展望した。

1)Yin M, et al. Oncologist. 2016; 21(6): 708-15.
2)Grossman HB, et al. N Engl J Med. 2003; 349(9): 859-66.
3)Pfister C, et al. Eur Urol. 2021; 79(2): 214-21.
4)Funt SA, et al. ASCO 2021.
5)Audenet F, et al. EAU 2021.
6)Martinez Chanza N, et al. ESMO 2021.
7)Necchi A, et al. Eur Urol. 2020; 77(4): 439-46.
8)van Dijk N, et al. Nat Med. 2020; 26(12): 1839-44.
9)Gao J, et al. Nat Med. 2020; 26(12): 1845-51.
10)Powles T, et al. Nat Med. 2019; 25(11): 1706-14.
11)Necchi A, et al. J Clin Oncol. 2018; 36(34): 3353-60.
12)Sternberg CN, et al. Lancet Oncol. 2015; 16(1): 76-86.
13)Birtle AJ, et al. J Clin Oncol. 2021; 39(6): 455(suppl).
14)Bajorin DF, et al. N Engl J Med. 2021; 384(22): 2102-14.
15)Powles T, et al. Nature. 2021; 595(7867): 432-37.
16)Kamoun A, et al. Eur Urol. 2020; 77(4): 420-33.
アンカー 1
監修 菊地 栄次先生のコメント
本講演では、続々と登場している尿路上皮がんに対する周術期補助治療のエビデンスが丁寧に紹介された。VESPER試験では筋層浸潤性膀胱がんのneoadjuvant療法として、dose-dense MVACとGCが対比され、dose-dense MVACでより高い病勢コントロール率が得られることが確認された (Pfister C, et al. Eur Urol. 2021; 79(2): 214-21.)。CheckMate-274試験では浸潤性尿路上皮がんに対するadjuvant nivolumab therapyが有意にdisease-free survivalを延長することが示された (Bajorin DF, et al. N Engl J Med. 2021; 384(22): 2102-14.)。今後、周術期補助治療を上手に使い分けることが実臨床で求められるだろう。そのための指標となるbiomarkerの探索は、急務の課題であるとの田岡氏の意見に賛同する。
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