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Genitourinary Cancer Today 2021 No.3
ASCO 2021:前立腺がん

リアルワールドにおける転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC)患者の一次治療 

#5072 Real-world first-line (1L) treatment patterns in patients with metastatic castration-sensitive prostate cancer in a U.S. health insurance database

Umang Swami 氏 (University of Utah, USA)

#5074 Real-world treatment patterns among patients diagnosed with metastatic castration-sensitive prostate cancer (mCSPC) in community oncology settings

Daniel George 氏 (Duke University, USA)
更新日:2021年8月2日
転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC)患者に対する一次治療のうち、実臨床において大多数で施行されているのは、アンドロゲン除去療法(ADT)単独か、ADTと第一世代の抗アンドロゲン薬(AA)との併用療法であることが、米国の医療記録データベースを基に解析した2つの後ろ向きコホート研究から明らかとなった。近年、ADTにドセタキセル(DOC)*1またはアビラテロン、エンザルタミド、アパルタミドといった新規アンドロゲン受容体(AR)標的薬(NHT)を追加する併用療法が、mCSPC患者の生存延長に有効であることが臨床試験で示されている1)。しかし、それらの併用療法の使用率は低く、臨床試験のエビデンスと実臨床との間に隔たりがあることが浮き彫りとなった。

Swami氏らの研究グループは、米国の民間医療保険と公的医療保険Medicare Advantageの保険請求データを管理するOptum社の医療保険請求データベースを用い、mCSPC患者のベースライン特性と一次治療の実態を評価した。2014年1月1日から2019年6月30日までにmCSPCの診断を受け、一次治療として承認されている全身治療を受けた4,221例を特定し、一次治療の種類により5つのグループに分類した。

その結果、ADT単独療法が2,364例(56.0%)、ADT+AA(フルタミド、nilutamide*2、ビカルタミド)が892例(21.1%)、ADT+NHTが577例(13.7%)、ADT+DOCが348例(8.2%)、ADT+NHT+DOCが40例(1%以下)で、大多数(77.1%)がADT単独療法かADT+AAで治療されていたことがわかった。

ベースラインの患者背景を見ると、ADT単独療法の患者と比べ、ADT+DOCの患者では平均年齢が若く(ADT単独 74.31歳 vs ADT+DOC 67.51歳)、チャールソン併存疾患指数(CCI)の平均スコア(同2.95 vs 2.24)や、転移がリンパ節のみに留まっている割合(同23.4% vs 11.8%)が低いという特徴があった。また民間医療保険を利用している割合が高い傾向もあった(ADT単独25.0% vs ADT+DOC 47.1%)。ADT+NHTの患者もADT単独療法の患者と比べ、CCIの平均スコアが低く(ADT単独2.95 vs ADT+NHT 2.63)、骨転移のみの割合が高く(同57.4% vs 68.6%)、内臓転移のみの割合が低かった(同12.0% vs 6.1%)。ADT+AAの患者は内臓転移のみ(ADT単独12.0% vs ADT+AA 8.0%)、および転移がリンパ節に留まっている割合が低く(同23.4% vs 14.5%)、公的医療保険を利用している割合が高い(同74.9% vs 79.4%)傾向があった。

2014年から2019年までの一次治療の選択を時系列で解析した結果、ADT単独療法は常に50%を超えていたが、ADT+AAと同様、年々減少する傾向があった(ADT単独:2014年62%、2015年57%、2016年62%、2017年55%、2018年51%、2019年56%、ADT+AA:同28%、29%、26%、22%、15%、14%)。ADT+DOCの割合は2015年に一時的に上昇するも、その後減少していき、一方ADT+NHTは、LATITUDE試験やSTAMPEDE試験の報告を受け、2017年から大幅に上昇していた(ADT+DOC:2014年7%、2015年11%、2016年9%、2017年9%、2018年8%、2019年7%、ADT+NHT:同3%、2%、2%、13%、25%、22%)。

また、内臓転移を有する患者について解析したところ、同様にADT単独療法が最も高頻度に施行されていた(ADT単独:2014-2015年 64%、2016-2017年63%、2018年57%、2019年51%、ADT+AA:同17%、19%、15%、23%、ADT+DOC:同16%、10%、10%、7%、ADT+NHT:同3%、7%、19%、15%)。

以上より研究グループは、臨床試験でADT+DOCまたはADT+NHTの生存延長が示されているにも関わらず、実臨床では十分に施行されておらず、内臓転移を有する患者を含めmCSPC患者の多くがADT単独かADT+AAの治療を受けていたとまとめ、実臨床でのmCSPC治療には、改善の余地がかなりあると考察した。

George氏らの研究では、人種間の差や治療期間にも着目した解析を行った。米国のがん治療の大規模データネットワークを有するConcertAI社の電子医療記録データより、2014年1月1日から2019年12月31日の間にmCSPCの診断を受け、2014年1月1日以降に治療を受けた853例を特定し、ベースラインの患者背景、一次治療の種類および治療期間を検討した。

一次治療の種類はADT+AAが最も多く26.3%、次いでADT単独療法が20.8%、ADT+NHT±AAは19.2%、ADT+DOC±AAは16.5%、その他が17.2%(AA単独[主にビカルタミド]6.0%、NHT±AA 5.3%など)だった。

ベースラインの患者背景では、ADT+DOC±AAの患者は年齢が若く(平均値:ADT単独71.1歳、ADT+AA 69.6歳、ADT+DOC±AA 63.8歳、ADT+NHT±AA 71.5歳、その他69.8歳、p<0.0001)、de novo mCSPCの割合が高かった(60.5%、69.6%、81.6%、51.2%、51.7%、p<0.001)。また、一次治療開始時のPSA値が高いという特徴もあった(中央値:37.9 ng/mL、57.2 ng/mL、75.4 ng/mL、26.8 ng/mL、11.3 ng/mL、p=0.002)。

人種別の解析では、黒人/アフリカ系アメリカ人の患者(141例)は白人の患者(598例)と比べて年齢が若く(平均値:黒人/アフリカ系アメリカ人66.4歳、白人70.5歳、ヒスパニック/ラテン系67.7歳、その他66.6歳、p<0.01)、一次治療開始時のPSA値(中央値:82.8 ng/mL、26.8 ng/mL、54.4 ng/mL、120.3 ng/mL、p<0.001)や内臓転移の割合が高い(7.8%、5.0%、8.7%、5.5%)といった特徴があったが、一次治療の選択は黒人/アフリカ系アメリカ人と白人の症例との間に差はなかった(黒人/アフリカ系アメリカ人:ADT単独22.0%、ADT+AA 27.7%、ADT+DOC±AA 16.3%、ADT+NHT±AA 17.0%、その他17.0%、白人:同21.6%、25.3%、15.7%、20.1%、17.4%)。

また解析対象の治療期間を、無作為化試験で示された治療期間と比較した結果、ADT+NHT±AAの治療期間中央値は14.3カ月で、LATITUDE試験で観察された24カ月2)と比べ短かった。ADT+DOC±AAのレジメン全体の治療期間中央値は10.8カ月だったが、ドセタキセルの治療期間中央値は3.5カ月であり、CHAARTED試験の4.5カ月3)よりも短かった。ADT単独は8.9カ月、ADT+AAは14.3カ月で、いずれも既報の臨床試験で観察された治療期間より短かった。

研究グループは、臨床試験のエビデンスとリアルワールドでの治療の乖離には、患者や疾患の特徴、医療費や医療へのアクセスの問題、または医師の認識不足などが関係している可能性があるとし、理解を深めるためには更なる研究が必要であるとした。

*1 mCSPCに対するDOCは本邦適応外
*2 本邦未承認

1) Teo MY, et al. Annu Rev Med. 2019; 70: 479-99. 
2) Fizazi K, et al. N Engl J Med. 2017; 377(4): 352-60.
3) Kyriakopoulos CE, et al. J Clin Oncol. 2018; 36(11): 1080-7.
 
監修 鈴木 和浩先生のコメント
mCSPCに対する一次治療の米国におけるreal worldデータの報告2つを取り上げた。異なるデータベースからの報告であるが、欧米では第一世代のアンチアンドロゲンを併用するCAB療法は標準的ではないため従来からADT単独療法が標準治療であったが、概してADT単独の割合が依然として多いことが特徴である。進行度、加入している保険、併存疾患などによりドセタキセル(本邦では適応外)やARTA併用が考慮されているものの、ARTAであっても観察最終時期でも20%前後であった。臨床試験のエビデンスとreal world治療の乖離には様々な要因が関係している報告であった。われわれは腫瘍の特徴、患者さんの併存疾患や全身状態、治療意欲や理解、経済的側面、ご家族との関係など、様々な因子を考慮して治療法を決定していくことが必要と考える。