
Round Table Discussion
座談会
提供:PDRファーマ株式会社
更新日:2022年5月25日



司 会:鈴木 和浩先生 群馬大学大学院医学系研究科 泌尿器科学 教授
演 者:樋口 徹也先生 群馬大学大学院医学系研究科 放射線診断核医学 准教授
症例提示:宮澤 慶行先生 群馬大学大学院医学系研究科 泌尿器科学
骨転移の多い前立腺がん診療において、PSAと並んで画像検査の果たす役割は大きい。また、核医学分野では、国内で初めて開発された骨シンチグラフィのコンピュータ診断支援ソフトであるBONENAVIは、Bone Scan Index(BSI)により骨転移の拡がりを定量化することが可能であり、本邦でも活用されている。
今回、前立腺がん診療および核医学のエキスパートの先生方にお集まりいただき、具体的な症例を示しながら、画像検査の必要性やBSIのエビデンスに基づく有用性などから、転移を伴う前立腺がん診療における核医学的評価の課題と展望について、議論いただいた。
Case Report
紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
<症例1>転移を有するホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)
●60歳代・男性・既往歴:前立腺肥大症(α1遮断薬を服用中)
1カ月前から腰痛を自覚し、近医を受診。PSA 1,235.13 ng/mL、MRIで腰椎・骨盤骨に転移性腫瘍を疑う病変を認め、当科へ紹介された。CT、MRI、骨シンチグラフィを行い、cT4N1M1b(膀胱浸潤、両側精嚢浸潤、両側内腸骨、外腸骨、閉鎖リンパ節転移、多発骨転移、EOD[extent of disease;骨転移の拡がり程度]スコア3)と診断、Gleason score 5+5=10、12/12コアで陽性、BSIは10.953であった。CAB療法開始後4カ月目にはPSA 0.79 ng/mL、BSI 0.47に低下、症状も改善し、骨転移量と集積の減少から病勢の低下が確認された。
その後は症状もなく経過していたが、治療開始後11カ月目、PSAが1.13 ng/mLに上昇し、改善していた腰痛が悪化したため画像検査を行ったところ、既知の骨転移の集積増加と新規部位(下部肋骨の集積部位出現)を認め、BSIは1.294に上昇していた。骨以外に悪化は認められず、エンザルタミドによる治療開始後、PSA値は低下し、症状も改善した。

<症例2>転移を有する去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)
●70歳代・男性・既往歴:高血圧症
排尿障害をきっかけに検査を実施し、PSA 5,602.9 ng/mLを認め、当科に紹介された。CT、MRI、骨シンチグラフィを行い、cT4N1M1b(膀胱浸潤、精嚢浸潤、多発骨盤リンパ節転移、多発骨転移、EODスコア3)と診断、生検と同時に両側精巣を摘出した。Gleason score 4+5=9、10/10コアで陽性、CAB療法を開始した(12カ月間奏効)。
12カ月間の奏効は得られたが、紹介元にて治療継続中にPSAが265.6 ng/mLに上昇し、BSI 10.117と骨転移の悪化を認めたため当科を再診(ベースライン時点)、ドセタキセルによる治療を開始した。その後はPSA、BSIともに低下傾向にあり、無症状で経過していた。ドセタキセル開始後14カ月目にPSAが57.67 ng/mLとやや上昇傾向を認めたため、骨シンチグラフィとCTを行ったところ、BSIは1.736と低下していたがCTにて多発肝転移を認め、カバジタキセルに切り替えた。その後、奏効するもPSA値と症状の増悪を認めたため治療を中断し、エンザルタミドに変更したが、その後死亡した。

前立腺がんの転移・再発診断における核医学的評価の重要性
Expert Lecture
演者:群馬大学大学院医学系研究科 放射線診断核医学 准教授 樋口 徹也先生
●前立腺がんの骨転移と骨シンチグラフィの特徴
進行性前立腺がんの主な転移部位は骨であり、ほとんどが造骨性転移である。骨シンチグラフィは骨転移の診断において重要な診断ツールであり、「前立腺癌診療ガイドライン2016年版」でも「直腸診や画像検査等の所見を基に適確な病期診断を行うことが必要である」として、骨シンチグラフィを含む画像検査が「グレードB」として推奨されている1)。
骨シンチグラフィでは、検査薬が骨代謝の亢進部位に集積する。1回の検査で全身の検索が可能であり、感度・特異度ともに80%弱~95%前後であることが報告されている2,3)。一方、関節炎や腰椎の変性などにも画像上の集積が認められ、腫瘍特異的ではない点に注意が必要である。
●骨シンチグラフィ診断支援ソフト「BONENAVI」とBSIの有用性
BONENAVIはコンピュータ診断支援(CAD)ソフトであり、日本人1,542例における99mTc-methylene diphosphonate(99mTc-MDP)によるデータベースを搭載し、これに基づき異常集積を解析・評価する。BONENAVIにより、骨シンチグラフィの客観的な評価が可能となった。
従来の骨シンチグラフィ画像は画像ごとに濃淡の表示にばらつきが生じることがあるため、縦断的評価が困難であるが、BONENAVIは画像の濃淡を均一にして表示を統一化させるため、縦断的評価が簡便にできるようになった。また、高集積部位については、転移の可能性を局所のArtificial Neural Network(ANN)値として算出、数値化して表示される。骨転移の可能性が低い局所ANN低値(0.5未満)は青色、可能性が高い局所ANN高値(0.5~1)は赤色で示され、骨転移と非特異的集積の鑑別に有用である。
さらに、赤く表示される骨転移の全身骨に対する割合(%)を示すBSIにより定量化が可能であり、BSIの有用性については国内外のガイドラインでも紹介されている4-8)。
●PSAとBSIをあわせて評価、mCRPCでは骨以外の内臓転移も考慮
骨シンチグラフィの読影においては、CADを用いることで感度の有意な上昇を認める報告がある(p<0.001、McNemar検定)3)。
BSIについては、転移性ホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)患者146例を対象としたコホート研究において、ADT治療後にBSIが上昇した群と低下または変化しなかった群では生存率が有意に異なっており(p=0.0004、log-rank検定)、BSIはPSAと同様に予後予測因子であることが示されている(ハザード比[HR]1.19、95%信頼区間:1.09-1.29、p<0.0001、Cox回帰分析)9)。さらに本邦におけるPROSTAT-BSI studyでは、骨転移を有する前立腺がんのうちmHSPC患者148例において、治療後のBSIレスポンスが不良な患者は、良好な患者に比べて死亡率が有意に高いことが示されている(p=0.037、カイ二乗検定)10)。したがって、mHSPC患者に対してはBSIも経時的に評価し、PSAとあわせて治療効果や進行を判定することが重要である(症例1参照)。
また、転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者88例を対象とした検討では、治療後3カ月および6カ月のBSIの変化率と生存期間との間に有意な関連性が認められた(治療後3カ月:HR 2.368、p=0.012、治療後6カ月:HR 2.226、p=0.002、Cox回帰分析)が、PSAでは認められず11)、CTや骨シンチグラフィなどの画像検査を組み合わせて評価する重要性が示唆された。またmCRPCでは、mHSPCに比べ肝転移の割合が有意に高いことが示されている(p=0.0349、カイ二乗検定)12)。以上のことから、mCRPC患者においてもPSAとBSI、さらにCTを含めたより慎重な画像検査を検討し、総合的に評価することが重要と考える(症例2参照)。
●前立腺がんの核医学診療における今後の展望
Prostate Specific Membrane Antigen(PSMA)は、前立腺がんの細胞膜に特異的に発現する膜タンパク質であり、これにリガンドと放射性同位元素を組み合わせた68Ga-PSMA-11※、18F-DCFPyL※がFDAで承認されている。これらを用いたPSMA-PET/CTによって転移診断の精度が向上するだけでなく、診断用の核種を治療用の核種に置き換えることによってがん治療を行うことも近年、可能になってきた。このように診断と治療が同時に行える手法は、「治療:Therapeutics」と「診断:Diagnostics」を融合した造語である「セラノスティクス:Theranostics」と呼ばれ、がん治療の効率化が期待されている。
またソマトスタチンシンチグラフィは、神経内分泌腫瘍(NET)細胞に発現するソマトスタチン受容体(SSTR)に親和性を有する放射性薬剤を用いたNETの画像検査である。さらに2021年9月には、SSTRをターゲットとしたペプチド受容体放射性核種療法(Peptide Receptor Radionuclide Therapy;PRRT)が承認され、膵臓や消化管NETを中心とした治療が始まっていることから、NETにおいてもセラノスティクスが進んでいる。前立腺がんでもSSTRの発現が報告されており13)、NET化した前立腺がんをターゲットとしたPRRTにも期待が高まっている。
※本邦未承認
まとめ
●骨転移の多い前立腺がんの核医学診療では、CTまたは骨シンチグラフィによる診断が基本となる。骨シンチグラフィはBONENAVIを用いて解析することで客観的な評価が可能である。
●正確な病勢評価のためにはPSAだけでなく、骨シンチグラフィから得られるBSIなどを組み合わせて評価することが重要である。
Discussion
前立腺がんの転移・再発診断における核医学的評価の重要性
●症例1:mHSPCのケースについて
鈴木 それでは、宮澤先生の症例や樋口先生のレクチャーの内容を踏まえ、議論したいと思います。早速ですが、症例1のようにPSAとBSIの変化にわずかな差があるとき、これらの数値をどのように捉えればよいでしょうか。
樋口 BSIが0.47から1.294と上昇し、1を超えているので異常集積があると判断し、骨転移の進行を予想します。
鈴木 PSAがあまり上昇していなくても、骨転移が進行する例はよくあるのでしょうか。

鈴木 和浩先生
宮澤 前立腺がんがmCRPCへ移行した場合、PSAの変化が小さくても症状の増悪や画像所見の悪化をみることがあります。特に、初診時にGleason score=5を認めるような予後不良なbiologyを思わせる症例では、PSAに加え症状や画像所見を定期的に評価する必要があります。PSA以外のBSIの上昇や症状の有無にも注意し、症状があれば画像検査を考慮することが重要であり、その教訓となるような症例です。
鈴木 PSAの微増も看過してはいけない、というメッセージですね。
●症例2:mCRPCのケースについて
鈴木 続いて症例2ですが、BSIが化学療法開始後14カ月で1.736まで低下しています。骨転移についてはどう評価されますか。
樋口 明らかに異常集積が減っており、骨転移は経時的に一貫して改善していると判断します。
鈴木 その一方でPSAが上昇し、CT検査で肝転移が認められました。進行性でGleason scoreが高い症例も治療薬の進歩とともに予後が延び、臓器転移もみられるようになってきました。
宮澤 CRPCはheterogeneityな性質を有し、PSAやBSIが改善傾向でも臓器転移をみることがあります。特に、症状の訴えやPSAの変化など、何らかのサインが認められたときは画像検査を検討すべきと考えます。当科では、PSAが安定し無症状であっても、CRPCに対しては3~6カ月を目安にCTと骨シンチグラフィを提案しています。
樋口 約5カ月間で急激に肝転移が増悪したケースで、これをタイムリーに捉えることは困難です。定期的にCTも含めた画像検査を実施し、総合的に評価することの重要性を実感しました。

宮澤 慶行先生
●転移を有する前立腺がんにおける核医学的評価について
鈴木 核医学専門医にとって、BONENAVIはどのような位置づけでしょうか。
樋口 通常、注意深く画像を読めばほぼ正確に診断することはできますが、見落とす可能性がゼロではないこと、経験が浅いと異常集積の確認に時間がかかることがあります。我々にとって、BONENAVIは安心して正確に診断できる有用なツールです。
鈴木 PSMA-PETの導入は、初期診断におけるCTと骨シンチグラフィの役割に変化をもたらすでしょうか。
樋口 PSMA-PETは一部の症例には有用なオプションとなりますが、設備上の制約もあります。CTや骨シンチグラフィは簡便に行うことができ、PSMA-PET導入後も前立腺がんの基本的な診断ツールであることに変わりはないでしょう。

樋口 徹也先生
鈴木 PSAは簡便かつ有用な指標ですが、骨転移が多い前立腺がんの診療では、PSAやBSIなどを組み合わせて評価することが重要です。近年は臓器転移に遭遇する機会も増えており、CRPCに対しては画像検査も定期的に行う必要があります。骨転移のマネジメントは進行性前立腺がん治療において最も重要なテーマですが、核医学は泌尿器科とは異なるアプローチで、それらに対する診断や治療の方向性を提示することができます。今後はより一層、核医学専門医と連携していきたいと思います。本日はありがとうございました。