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Genitourinary Cancer Today 2022 No.5
APCCC 2022
セッション6:転移性去勢抵抗性前立腺がんの疾患管理
【ディベート】mCRPCにおけるPARP阻害薬
Session6: Management of metastatic CRPC, Debate: PARP Inhibitors in mCRPC
PARP阻害薬は全ての患者に投与するか?投与する患者を限定するべきか?
PARP for All or PARP for Some?
Noel Clarke氏(University of Manchester)
PARP阻害薬は分子的に選択した患者にのみ投与すべき
PARP inhibition: The case for only treating molecularly selected prostate cancers
Johann de Bono氏(The Institute of Cancer Research and Royal Marsden Hospital)
更新日:2022年11月14日
PARP阻害薬であるオラパリブの単独療法は、相同組換え修復(HRR)遺伝子に変異を有するmCRPC患者を対象としたPROfound試験で有効性が認められた1)。オラパリブの作用機序はHRR欠損のある細胞のDNA修復経路をブロックすることである2)が、PARP阻害がアンドロゲン受容体(AR)依存性遺伝子転写に影響を与える可能性3)や、アビラテロン(ABI)がHRR欠損を誘発するとの仮説4,5)から、PARP阻害薬とABI併用の相乗効果によって難治性患者で抗腫瘍活性を示す可能性が期待されている。
ABIの治療歴がないmCRPC患者796例を対象に、一次治療としてオラパリブ+ABI併用*をABI単独と比較検討したPROpel試験では、併用療法群において画像診断に基づく無増悪生存期間(rPFS)の有意な延長が示された(ハザード比[HR] 0.61、p<0.0001)6)。一方、同時期にニラパリブ*+ABI併用とABI単独を比較検討したMAGNITUDE試験は、無益性解析の結果HRR遺伝子変異のない(HRR BM-)患者では併用療法の優位性が認められず早期中止となったため、このグループでは大規模集団における解析は行われなかった。HRR 遺伝子のうちBRCA1/2変異陽性の患者では併用療法群でrPFSが有意に延長した(HR 0.53、p=0.0014)7)。
Clarke氏はPROpel試験とMAGNITUDE試験の結果が異なることについて、患者の選定基準の違い(DNA損傷修復[DDR]変異による選定の有無、BRCA変異患者の比率、ABI治療歴など)や、オラパリブとニラパリブにおける薬理学的および薬物動態学的違いに起因する可能性を挙げた。オラパリブとニラパリブでは、細胞毒性や血液学的毒性のプロファイル、作用するPARPファミリー、PARPトラップ能力などが異なる8,9)。PARPトラップにおいては結合の安定性が重要であるが、オラパリブとニラパリブは同じ強度でPARP分子がDNA損傷部分に結合するものの、分離するタイミングはニラパリブがオラパリブより早い10)。こうしたPARPトラップのメカニズムや分子的傾向性の差が、有効性の違いに影響している可能性があると指摘した。また、MAGNITUDE試験の無益性解析がPSAイベント83例、rPFSイベント65例と、登録開始からわずか9カ月程度であったとし、何らかのシグナルを捉えるには早過ぎたのではないかとの見解を述べた。
以上より、PARP阻害薬+新規ホルモン治療薬の併用をDDR変異による選定なく全ての患者で行うべきかどうかは未だ不明であるが、PROpel試験の全生存(OS)解析が報告されれば、DDR変異の有無を問わず有効性を示す何らかのエビデンスが得られるのではないかとまとめた。
これに対しde Bono氏は、まず実臨床や第Ⅰ相試験の責任医師としての経験から、オラパリブとニラパリブの作用は類似しており、DDR変異を有する患者にのみ有効であると言えると述べた。オラパリブ単剤を検討したTOPARP-A試験では、オラパリブが奏効した患者は1例を除いて全例DDR変異を有しており、続いて行われたTOPARP-B試験のスーパーレスポンダーは、BRCA2 HOMDELを有する患者であった2,11)。またPROfound試験でオラパリブがベネフィットを示した患者は主にBRCA1/2またはATM変異を有するコホートだったと付け加えた1,12)。
MAGNITUDE試験でHRR BM-の患者グループではニラパリブ+ABI併用の有効性が認められずHRR遺伝子変異陽性のグループ(特にBRCA変異患者)にのみベネフィットが認められたことに驚きはなく、PROpel試験とMAGNITUDE試験に異なる結果をもたらすほどニラパリブとオラパリブの特性の差は大きくないはずであると述べた。PROpel試験ではDDR変異がない患者でもPARP阻害薬が活性を示すメカニズムについて仮説を挙げているが、もしPARP阻害薬がAR依存の転写に影響を及ぼすのであればDDR変異を伴わない患者でもPSA値が低下したはずであること、もしAR阻害がHRR欠損を誘発するのなら、併用療法による奏効率の差はわずか10%ではなくもっと大きかったはずであることから、これらの仮説は正しくないだろうと推測した。また同試験のrPFSサブグループ解析でDDR変異なしに分類された患者の中には偽陰性が含まれる可能性も指摘した。
PARP阻害薬は、白血病や骨髄異形成症候群など重篤な有害事象のリスクを伴う。de Bono氏は、PROpel試験のOSデータ解析をはじめ、さらに詳細なデータと議論が必要であると認めた上で、優先すべきは患者へ最大限の治療ベネフィットを提供し害を与えないことであるとし、現時点では遺伝子変異による層別化を推奨すると述べた。
*本邦適応外
1)de Bono J, et al. N Engl J Med. 2020; 382(22): 2091-102.
2)Mateo J, et al. N Engl J Med. 2015; 373(18): 1697-708.
3)Schiewer MJ, et al. Cancer Discov. 2012; 2(12): 1134-49.
4)Polkinghorn WR, et al. Cancer Discov. 2013; 3(11): 1245-53.
5)Asim M, et al. Nat Commun. 2017; 8(1): 374.
6)Saad F, et al. J Clin Oncol. 2022; 40(suppl 6): abstract 11.
7)Chi KN, et al. J Clin Oncol. 2022; 40(suppl 6): abstract 12
8)Leo E, et al. Cancer Res. 2018; 78(Supple 13): abstract LB-273.
9)Saad F, et al. Cancer Chemother Pharmacol. 2021; 88(1): 25-37.
10)Zandarashvili L, et al, Science. 2020; 368(6486): eaax6367.
11)Mateo J, et al. Lancet Oncol. 2020; 21(1): 162-74.
12)Hussain M, et al. N Engl J Med. 2020; 383(24): 2345-57.
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